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アンテベラムのTagTakのレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
3.5
観る前の印象と本編の落差に驚いたという点では今年随一。端的に言って、ミスリードを巧みに促す映画だ。アヴァンタイトルで長回しを駆使して黒人奴隷制の世界を克明なまでに描き出す。その後も、黒人奴隷たちの過酷な生活を、丹念で真実味のある描写で観客を150年前の世界に引き込む。
しかし、それが実は罠で、時制が変化する中盤からは、予想もしない展開へ誘う。その語り口が、ギミックとしての機能だけでなく、しっかりしたテーマ性を持っているのも、この映画の美点だ。「黒人奴隷制」というアメリカの恥部を通して、今なお続く人種差別や女性差別の卑劣さ・忌まわしさを描き、冒頭に登場するウィリアム・フォークナーの言葉よろしく奴隷制が過去の出来事ではないことを突きつける。
黒人奴隷制が形を変えて残り続ける恐ろしさを、誰にでも降りかかるかもしれない恐怖とした描いた点では、トワイライトゾーンを意識した超現実的展開でしか黒人ホラーを描くことができないジョーダン・ピールより一枚上手だ。
また、丁寧な演出にも好感が持てるクライマックスでブラックスプロイテーション的な痛快さを交えて描く、ジャンル映画としての矜持に惚れた。
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