タケオ

アンテベラムのタケオのレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
3.9
-「古き'悪しき'時代」への痛烈な意趣返し 『アンテベラム』(20年)-

 アメリカ南部のルイジアナ州。レベルフラッグ(南部海軍旗)がはためく広大なプランテーションで、CSAの軍服に身を包んだ白人たちが胸を張って行進し、逃亡しようとした黒人奴隷が見せしめとして処刑される。思わず目を逸らしたくなるような残酷な光景を滑らかなカメラワークで優美に映し出していく冒頭シークエンスは、『ヤコペッティの残酷大陸』(71年)を彷彿とさせる。
 実は本作の撮影では、映画史に残る大問題作『風と共に去りぬ』(39年)と全く同じカメラレンズが用いられている。これは、南北戦争当時のアメリカ南部を情緒たっぷりに「古き良き時代」として描いた『風と共に去りぬ』に対する痛烈な意趣返しだ。南北戦争当時のアメリカ南部の経済は、黒人奴隷が鞭打たれ、レイプされ、焼き印を押され、死ぬまで働かされることで回っていた。それこそが南北戦争当時の現実なのだと念を押すように、本作は白人領主たちの黒人奴隷に対する蛮行を鮮烈なタッチで描き出していく。本作が公開された当時に大統領を務めていたドナルド・トランプが、『風と共に去りぬ』をフェイバリット・ムービーの1つとして挙げていたという事実も忘れるわけにはいかない。トランプ政権下でアメリカ国内の分断が深刻なものとなった結果、悪夢のような過去を「古き良き時代」として美化する勢力が伸長するようになってしまった。本作『アンテベラム』(20年)は、そんな現状に対して警笛を鳴らす作品である。『アンテベラム』はアッと驚く「映画的な仕掛け」によって現代アメリカの病を赤裸々に暴き出し、そして真っ向から「NO」を突きつけてる。「古き'悪しき'時代など二度とごめんだ」と。
 気の滅入るような場面が満載の、観ていて本当に辛い作品である。しかし驚くべきことに『アンテベラム』は、クライマックスに至って『黒いジャガー』(71年)『コフィー』(73年)『ジャンゴ 繋がれざる者』(12年)をはじめとした「ブラックスプロイテーション」としての様相を覗かせるようになる。本作はレイシストの屁理屈に対して、論理的な返答を用意するような真似はしていない。「絶対に許すものか」と強烈な一撃をお見舞いするだけである。レイシズムに弁明の余地などないからだ。