いずみたつや

アンテベラムのいずみたつやのレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
4.5
“過去は決して死なない。過ぎ去りさえしないのだ”というウィリアム・ホークナーの引用がすべてを物語っています。「過去」を過去のものとして片づけさせない怒りの作品でした。できるだけ情報を入れずに観るのをお勧めします。

まずオープニングの美しくも残酷な長回しショットに思わず息を呑みました。印象的な旋律の中で描かれる無慈悲で理不尽な暴力の歴史。

初見では分かりませんでしたが、この単純なメロディーの反復が悲劇の繰り返しを示唆しています。

物語的にも工夫に満ちています。南北戦争時代のプランテーションに「ある音」が鳴り響いた瞬間の総毛立つような感覚は、強烈に僕の脳裏にこびり付いています。現代を生きる我々には関係のない話だと思って観ている観客の首根っこを掴んで引き摺り込むようなショッキングな瞬間でした。

観終わった後によかったとひと安心させてはくれない気味の悪さが残るのは当然です。「過去は過ぎ去りさえしない」のだから。