Foufou

アンテベラムのFoufouのレビュー・感想・評価

アンテベラム(2020年製作の映画)
1.5
『ゲット・アウト』と『ミッドサマー』を足して二で割ったような……などと書いたら両作に対する冒涜でしょう。

ラテン語タイトルですか。「アンテベルル(ラ)ム」とするのが正しいような気もしますが、小生のラテン語の師いわく、今となっては往時のラテン語を正しく発音できる御仁は一人もいないんだとか。しかしそれにしても覚えにくいタイトルです。戦争以前。言わずと知れた、南北戦争前のことですね。

小賢しいというか、鼻につくというか。冒頭からもう「はあ?」となるわけです。ファッションが時代考証的におかしいというのもある。ヘアスタイルとか服装とか。で、なんか変だと。なんか変だとなると、もうこちとらたくさん映画を観てきてますからね、文脈通りに観てはイケナイのサインを感得してしまう。つまり早々にネタバレするわけです。そうなると、観客をミスリードしようとするあらゆる演出が、もうあざとさの見本市のようで観ていて苦しいのなんの……。

フォークナーとか南軍旗とか蝶とか松明とかね。逐一読み解くまでもありません。北軍の制服を着て馬で駆け抜けるなんざぁ、笑止も笑止、どれもこれも、ちょっと物を知った高校生の発想を出ないかなぁ、と。

冒頭のネタバレもそうですが、そもそも戸外もまだ明るいような人目の多い夕刻に脱出劇なんか出来するかね。ネタバレしたところで、あの状況はよくわからない。あの空間からは容易に出られない、というのが最低限の「ゲームの規則」でしょうよ。それに、脱出の動機は誰にもあるはずなのに、なぜか一部の特権的な者たちだけがそれを試みるようなのも、どうにも解せない。映画の冒頭で示さなければならないのは、黒人たちから言葉を奪うに十分な壮絶なる暴力でしょう。妙に文芸チックな絵面にこだわって、暴力の描写が甚だお粗末。テンポが悪くて眠くなるレベル。『チタン』の冒頭をぜひ参考にされるよう、監督の方にはお勧めしたい。観客を驚かせたいなら、極力絵には黙ってもらわないと。本作は饒舌というか、くどい。

いまさら報復合戦をしたところでなんの解決にも至らないというのが、ごくフツーのオトナの見解でしょう。ここで得られた一瞬のカタルシスなど、冒したリスクに見合わないのは言うまでもない。公民権運動から60年。こういう映画を撮るなら、鍛錬を極めたユーモアと洗練された皮肉がなんとしても必須でしょう。白人側がバツの悪くなるような。この映画は同情よりも反感を買うのではないか。誰得映画。

そういう観点からも、『ゲット・アウト』には一日の長がございます。
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