ナガエ

トルーマン・カポーティ 真実のテープのナガエのレビュー・感想・評価

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作品は読んだことないけど、気になった映画。カポーティ、大分ヤバい奴なんだなぁ。そういう意味で、面白かった。

僕の中の「トルーマン・カポーティ」のイメージは、実際の殺人事件を扱った作品だという「冷血」ぐらいだった。映画を観ながら、あぁそうか「ティファニーで朝食を」をカポーティか、と思ったぐらい、カポーティについて特段なんのイメージもなかった。

この映画は、あるテープをベースに作られている。一人のジャーナリストが、カポーティの死後、カポーティの真実に迫るために様々な人物を取材した様子を記録した音声テープだ。もちろん、この映画用に行われたインタビューもあるが、基本はこの音声テープの録音を元に映画が構成されている。

映画の冒頭で、様々な人物がカポーティを様々に評する。曰く、

【指折りの人たらし】
【掛け値なしの奇人】
【ゲスな男】
【ふしだらで楽しい】
【砂糖漬けのタランチュラ】
【手に負えない子供】
【彼が死んでから一度も笑ってない】

全体的に、悪い感じの評価が多いけど、それでも、「だとしても惹かれてしまう」という雰囲気の評価だという感じがした。

この映画を観ようと思ったのは、予告でこんな表現が出てきたから。

【誰もが一度は会いたいと願うが、一度会えば二度とは会いたくない男】

映画を観た感じでは、どうもこの表現は正しくない気がした。多くの人が、また会いたいと思っているように僕には感じられた。事実カポーティは、NYの社交界の常連だったし、ディナーパーティーには引っ張りだこだった。ある人物は、

【彼のいないディナーパーティーがどれほど退屈か知ってる?】

と言っている。

とはいえカポーティは、自分がある種の「道化師」扱いされていることも理解していたようだ。彼は、「誰もが私を好きだというし、魅了されもするが、誰も私を愛してくれない」と言ったと言う。

正確には把握できなかったけど、なかなか複雑な幼少期を過ごしたようだ。とはいえ、自分のことを滅多に話さない男だったらしいから、どこまで本当か分からないけど。親子二代に渡って孤児だったようで、かなり苦労したという。母親は、高級娼婦のような仕事をしていて、資産家と結婚して、一時期は優雅な生活をしていたらしいが、自殺してしまう。この母親が、「ティファニーで朝食を」の主人公・ホリーのモデルだと言っていたらしい。

彼は、23歳の時に発表したデビュー作から大いに注目を集めた。ゲイと明かして生きていくことが今よりずっと困難だった時代に、ゲイを扱った小説を書いた。カポーティ自身もゲイだった。デビュー作の裏表紙には、彼の写真が掲載されており、それがあまりに美少年だったこともあり、一躍有名になっていく。

そうやって彼は、アメリカトップの上流階級であるNYの社交界に交わるようになるが、このことによってやがて彼は自ら破滅を導くことになる。

彼の遺作であり、未完の小説である「叶えられた祈り」は、彼が社交界で見聞きしたゴシップを惜しげもなくさらけ出したものだったようだ。読めば、それが誰のゴシップなのかすぐ分かるようなものだった。作品の一部が発表されるや、この小説は物議を醸し、彼は当然、社交界から追い出されることになる。まあ、どんなことを書いてるのか聞けば、それもしょうがないかと思う。ある資産家と結婚した女性を主人公にした小説では、その女性が旦那を射殺したかのように書き、また別の話では、ある資産家が生理中の女性とセックスをしてベッドを血まみれにしたというようなことが書かれていたのだ。

カポーティにとって社交界というのは「小説のネタ」以上のものではなかったという。しかし、「叶えられた祈り」を発表したことで失った友人の中で唯一、ベイブ・ペイリーという女優との友情が終わってしまったことだけは、死の間際まで嘆いていたと、カポーティの養女となった女性が語っていた。ある人物は、ペイリーほどカポーティのすべてを受け入れた人物はいない、と言うほどだった。

この未完の「叶えられた祈り」についてカポーティは「書き終えた」と話していたという。養女の女性も「何かは描き続けていた」と話していたし、作家仲間も「どこかにあると信じている」と語っていた。しかし未だに、その原稿は見つかっていないという。始めから存在しないのだ、という人も多いようだ。

「冷血」に関してのエピソードも興味深かった。基本的にカポーティは、自分の世界の中で作品を生み出すので、外からの題材を必要としなかったという。しかし、カンザスで起こった事件に関わってみないかという話をもらい、今までのやり方の外側に出ることにした。取材に6年掛け、カンザス州中を飛び回ったという。天性の人たらしらしく、街全体をそそのかし、手なづけ、捜査官はおろか、殺人犯その人とも仲良くなったという。しかしその一方で彼は、自身の小説を完成させるために、殺人犯の死刑執行をすぐに行うようほうぼうに手紙を出したという。

この作品は、世界的なベストセラーとなる。ある人物は、「実在の殺人事件をこれほどの小説に仕上げた人物はいない」と評した。そもそも彼が「冷血」を書くまでは、小説というのはフィクションのことだった。そこに彼が「冷血」という作品で、ノンフィクションノベルというジャンルを切り開くことになった。それも凄いなと思う。さらに、生涯孤独感を抱えながら、満たされないまま生き続けたカポーティは、「この小説の読者だけが僕のことを理解できる」と言ったという。

社交界を追われたカポーティは、ナイトクラブに通い詰めるようになり、彼が通った「スタジオ54」は、店の外に入りきれない人が密集するほどの熱狂を生んだ。テレビにも頻繁に出演していた彼は、コカインでラリった状態でも出演し、時には「スタジオ54」から直接テレビ局に来ることもあったという。

59歳という若さで亡くなった。「こんな存在は、小説の中にもいない」と言われた稀有な人生は、なかなか興味深いものでした。
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