ドニ・ポダリデスが言うように、何よりも天才ギトリの声に酔いしれる作品。全編がほぼ一人称の語りによって構成されており、それによってテンポの良さ、喜劇性が助長されている。
切り返しをそれほど多用せずに、固定したカメラを好むも、カメラの位置とアングルは斬新。
衛兵のシーンでの逆回し。大幅な時間の省略。特に冒頭の食卓での、たった2カットで事態の急変を提示してみせるセンス。着せ替え人形のように何度も繰り返される女性のバストショット。マジックの練習であったり、イカサマをやる際のお手本のような鏡の使い方。照明を巧みに操り、ある時は影絵のように童心をくすぐり、ある時はホラーのように恐怖心を煽る。
冒頭から終わりまで、所狭しと散りばめられた遊び心に、映像作品の豊かさと歓びを感じざるをえない。