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コントラ KONTORAのEDDIEのレビュー・感想・評価

コントラ KONTORA(2019年製作の映画)
4.4
逆走する男、祖父の椅子、手帳と遺産…継承と親子の絆を描くヒューマンドラマ。
父娘の関係に陰りが見え鬱屈とした日々を過ごす少女が過去を遡って見つめ直す。
家族に光をもたらす摩訶不思議な後ろ向きの男。ラストは印象深く記憶に刻まれた。

公開当時、それこそ後ろ向きに歩く謎の男役の間瀬英正さんがめちゃくちゃ頑張ってプロモーション活動されていたので気になっていた作品でした。
なかなか近くの映画館では縁がなく見逃してしまったんですが、なんとAmazonプライムにて見放題配信に!

144分の尺にたじろぎましたが、観賞を始めると一気にのめり込みました。全然長さを感じません。
全編モノクロの映像は全く古さを感じさせることなく、ただ田舎町の田園風景など撮影の美しさに目を奪われるばかり。
これは主人公の祖父が特攻隊員として従軍した戦争時代に遡るというテーマ性とその時代の写真や資料が白黒でしか残っていないから、モノクロで映像化したのは監督の当初からの狙い通りだったようですね。

主人公のソラ役を演じた円井わんは『うみべの女の子』や『タイトル拒絶』にも出演した実力派の若手女優。
目にこもった力強さや思春期のむず痒さ、気難しさ、怒りなど複雑な感情を上手く表現していました。見事な主演演技だったと言えるでしょう。

後ろ向きに歩いたり走ったりする珍妙な男を演じた間瀬英正は、具体的な言葉でセリフを放つシーンがなく、基本は叫び声や歌、そして一つ一つの表情の変化で魅せていました。
本作において特異なキャラクター性もあって最も印象深い人物です。

この作品は田舎町に突如現れた謎の男の正体を探っていく面白さもあるんですが、根本的には家族再生の物語だと感じました。
早くに母を亡くし、多感な少女には父親との関係性があまり良くない。彼女にとって良き理解者であり、話し相手でもある祖父が突然亡くなってしまう。
父と2人きりになったソラは否が応でもそれぞれの気まずさが浮き彫りになります。
父を避けたい年頃の娘。
娘とわかり合いたい父親。

だけど、それぞれが向いている方向が違うからすれ違いは必然的に起こるわけです。

そこで彼らの関係性に強く作用するのが後ろ向きの男です。
自分の保身ばかり考える父親が少しずつ娘と距離を近づける。そこには共通点を持った他人が入り込むことが必要だったんですね。
どのように男が彼らの関係性に作用したのかは見てからのお楽しみということで。

それにしてもラストシーンが素晴らしかった…2021年に公開された新作映画の中でも群を抜いて記憶に残る素晴らしいラストカットでした。
数少ないミニシアターでしか上映されていなかった作品なので、知らない方も多いかと思いますが、多くの方に観ていただきたい良作です。

※2021年新作映画178本目
※2021年自宅鑑賞235本目
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