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ハニーランド 永遠の谷のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ハニーランド 永遠の谷(2019年製作の映画)
3.0
[文化形成と移民についての寓話] 60点

元はブレガルニカ周辺の生活を撮る教育番組的な側面を持っていたらしいが、撮影隊がHatidze Muratovaという最後の自然養蜂家に出会ったことで企画は根底から変わってしまった。自然養蜂家とは私が勝手に邦訳したのだが、要するに自分でミツバチを繁殖させるタイプの養蜂ではなく、断崖絶壁などに住み着いた野生のミツバチの巣を少し頂戴して育てるタイプの養蜂(?)で、それを最早"養蜂"と呼んで良いのかすら分からないほど絶滅危惧職業なのである。映画は電気も水も通っていないBekirlijaの村で暮らすHatidze Muratovaの養蜂生活、北マケドニアのど田舎に住み着いたトルコ系の先祖から受け継いだ"半分貰って半分は返す"という自然との生き方など、伝統的な生き方を提示する。撮影隊は3年間も彼女に密着し、400時間を超える映像を撮ったそうな。

村へ流れ者一家がやって来てから、ムラトヴァの生活も騒がしくなる。大量の家畜と大量の子供を連れてきた彼らは勝手に柵なり家なりを建て始め、空いているスペースでメェメェモーモーギャーギャーと騒ぎまくり、家畜や子供たちはムラトヴァの静かな生活に無遠慮に侵犯し続けるが、彼女は優しく受け入れた上で養蜂のやり方まで伝授する。彼らとムラトヴァの間には単純化されすぎなほど大量の二項対立を生み出し、そのどれもが恐らく観客の求めていたであろう対立であり、釈然としない気分になる。流れ者一家は移民たちのメタファーであるのは明白だが、自分たちの文化を優先し、土地を搾取するだけ搾取して去っていくその様はあからさまな嫌悪感に満ちており、EU諸国への"通過点"である北マケドニアの現状を指し示す寓話的な側面も見受けられる。或いは、自然をないがしろにした人々が、その摂理に負けてしまうというお伽噺的な側面も持ち合わせている。ムラトヴァの先祖も流れ者のトルコ系住民であることから、文化が淘汰される瞬間を寓話的に切り取ったとも取れる。流れ者たちの暴力的で独善的な文化は根差すことなく土地から拭い去られ、結局はムラトヴァの文化が残り続けるのだ。

この映画にはドキュメンタリー映画が苦手な理由が多く詰まっている。整いすぎているのだ。まるで劇映画のようなカット割りで流れ者が登場し、その家族喧嘩にも潜入する。出来杉君でございます。

追記
珍しくアカデミー賞のドキュメンタリー部門は3本観ちゃったけど、『娘は戦場に生まれた』が取るでしょう。というか取らないとね。→取りませんでした!
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