蛇らい

ハニーランド 永遠の谷の蛇らいのレビュー・感想・評価

ハニーランド 永遠の谷(2019年製作の映画)
3.8
世界の秘境のドキュメンタリーは星の数ほどあるが、それらと一線を画すオリジナリティがこの作品にはある。

北マケドニアという下手したら初耳くらい馴染みのない国が舞台。そこで人工的な巣箱ではなく、自然に蜂が作った巣から蜂蜜を採取する自然養蜂家に3年間密着したドキュメンタリー。

この映画の特出した点は、ドキュメンタリーでありながら非常に映画的で、ストーリー性が高いことだ。カメラや監督の意図的な撮り方を感じさせず、そこで起きた出来事の素材のみでしっかりとしたドラマに仕上がっているので、ドキュメンタリーという枠組みに苦手意識がある人にも受け入れられやすいと思う。

物語の主題は、人間の合理性に基づいた営みと自然界との対立。『もののけ姫』的な語り口と言ってもよい。蜂からは半分だけ蜂蜜を採取して残りの半分は蜂たちへ、という主人公の考えは、生き物への敬意と同時に、自然とうまく共存するための秘訣だ。決してローカルの土着的、伝統的な思考という訳ではなく、彼女の経験からくる生き方だ。

そして、主人公の彼女は家族を持たず、盲目の年老いた母の世話をしている。近隣には誰も住んでおらず、親以外の人間とのコミュニティはない。

その場所に越してくる大家族と主人公の対比がおもしろい。大家族も養蜂を始めるのだが、お金に目が眩み主人公の教えを守らず、蜂から蜂蜜をすべて取り上げてしまう。結果として蜂の半数が死滅してしまう。

そこから見えてくる自然と人間の共存していく難しさがある。主人公のように家族を持たず、限られたコミュニティの中で生きていければ良いのだが、社会の大多数は越して来た大家族のように家族を養うためにお金がある程度必要となる。そこで合理性に基づいてお金を稼ごうとすると、自然への犠牲は付き物だ。

今さら主人公のような生き方に人間が戻るのは不可能だが、彼女の生き方から学ぶべきことがたくさんある。生態系の頂点にいる人間だからこそ持たなければいけない責任と自制を、今一度戒めようと思わされる。
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