Dick

プロミシング・ヤング・ウーマンのDickのネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

❶相性:上。
★ワイルドで型破りな復讐ドラマ。今年のアカデミー賞で作品、監督、脚本、主演女優(キャリー・マリガン)、編集の5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。
★最後の最後でアベンジ(正義の復讐)が実行される。多大の犠牲を払って正義が行われたのだ。感動の涙がどっと溢れた。観てのお楽しみである。

➋時代は現代、舞台はアメリカのオハイオ州(メインのロケ地はLA)。

❸主な登場人物

①カサンドラ・トーマス(キャシー)(キャリー・マリガン):
主人公。カフェのアルバイト店員で、30歳を目前にした今も両親と実家暮らし。将来の夢もなく、恋人も友人もいない。彼女は夜ごとバーに行き、泥酔したふりをして男性に近づく。かつてはフォレスト医大(架空)で首席を争うほどの秀才だったが、卒業を目前に突然退学した。その理由は、同じ医大で学ぶ親友のニーナが、クラスメートたちに強姦されたことを苦に自殺したことで、心に深い傷を負った為だった。
②ライアン・クーパー(ボー・バーナム):
キャシーの医大時代のクラスメート。今は小児外科医。少し不器用な性格だがキャシーと次第に良い関係になる。
③マディソン・マクフィー(アリソン・ブリー):
医大時代、ニーナの事件を言いふらしたゴシップ好きの女。今では結婚して子どものいる専業主婦。
④スタンリー・トーマス(クランシー・ブラウン):
キャシーの父。
⑤スーザン・トーマス(ジェニファー・クーリッジ):
キャシーの母。
⑥ゲイル(ラバーン・コックス):
キャシーがアルバイトをしているカフェの店主。キャシーと気が合う。
⑦エリザベス・ウォーカー(コニー・ブリットン):
ニーナの事件をもみ消した大学の学部長。10代の娘がいる。
⑧ジョーダン・グリーン(アルフレッド・モリーナ):
ニーナの事件をもみ消したことを後悔している弁護士。
⑨アル・モンロー(クリス・ローウェル):
ニーナをレイプした主犯のクラスメート。裏で手をまわして罪を問われなかった。近く結婚を控えている。
⑩ニーナ・フィッシャー(名前だけで、実物は回想シーンも含め何処にも登場しない):
キャシーのベストフレンド。キャシーと同じ医大で首席を争っていたが、クラスメートたちに強姦されたことを苦に自殺する。

❹主人公キャシーのタイムシリーズ◆◆◆ネタバレ注意
★映画の中身を解体して、時系列順に再構成した。

①キャシーとニーナは、幼い時から、仲良しの親友だった。
②2人は、同じ医大に入り、共に首席を争うほどの秀才だった。
③ニーナがアル他のクラスメートたちにレイプされる。ニーナが被害を訴えるが、学部長のエリザベスも警察も、まともに調査しない。それを悲観してニーナが自殺する。
④親友の自殺で心に深い傷を負ったキャシーは、卒業を目前に退学する。
⑤それから数年後、30歳を目前に控えたキャシーは、実家で両親と暮らしている。昼間は、カフェで働いているが、夜は、一人でバーに行き、泥酔したふりをして男を引っ掻け、性行為の直前に、芝居だったことを明かし、2度と女性の弱みにつけ入るようなことをするなと警告することを生きがいにしている。
★キャシーは、引っ掛けた男の数を、タリーマーク(下記の❻トリビアを参照)でノートに記録しているが、その数は数百人に上る。
★凄い!、ブラックコメディだけのことはある(笑)。
⑥大学のクラスメートだったライアンがカフェにやってきて、キャシーに気づく。キャシーはライアンから、かってのクラスメートたちの近況を聞く。
★その後、キャシーとライアンは恋愛関係になる。
⑦クラスメートたちの恵まれた近況を聞いたキャシーは、封印していたニーナの痛ましい記憶が蘇ってくる。そして、キャシーは決意する。ニーナを自殺に追い込んだ奴らを懲らしめよう。アベンジしよう。
★さあさあ、お立ち会い。お待ちかねの大復讐劇の始まり、はじまーり(笑)。
⑧復讐のターゲットはタリーマークで示される。
【/】:マディソン・マクフィー:ニーナの事件を言いふらしたゴシップ好きの女。
【//】:エリザベス・ウォーカー:ニーナの事件をもみ消した大学の学部長。
【///】:ジョーダン・グリーン:ニーナの事件をもみ消したことを後悔している弁護士。
【////】:アル・モンロー:ニーナをレイプした主犯のクラスメート。
★復讐と言っても、心根の優しいキャシーは、暴力を振るったり、殺傷したりはしない。相手が、心底悪かったと謝罪すれば許すのである。
★偉いね、キャシー。私なら、とても真似は出来ません。相手を半殺しにしないと気が収まりません。

◆◆◆以下重大なネタバレがあります。本作は白紙状態で観る方が楽しめるので、これからご覧になる方は以下をスルーして下さい。

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⑨さて、残ったのはラスボスのアル。結婚式を間近に控えたアルは、男仲間だけが山荘に集まり、独身最後の「バチェラー・パーティー」を楽しんでいる。そこにストリッパーを装ったキャシーが乗り込んでいく。キャシーは仲間たちに薬物を混入させた酒を飲ませ、アルを2階の寝室に誘ってベッドに縛りつける。キャシーは、アルに正体を明かし、メスで切りつけようとする。その直前、縛りが緩んだアルは、枕をキャシーの顔に押さえつけて、ついに窒息死させてしまう。
★これには驚いた。哀れなキャシー、さぞ無念だっただろう。
⑩さらに翌朝、アルは友人ジョーの助けを得て、キャシーの遺体を山奥で焼却してしまうのだ。
★どこまでもあくどいアル。

⑪【卌】:エピローグ:殺されてもキャシーの復讐は続いていた!
ⓐ華やかな結婚式が進む中、警察がやってきてアルを逮捕する。
★キャシーと恋仲のライアンも結婚式のみに出席していた。
ⓑキャシーは、万が一に備え、グリーンに、「もしも自分が行方不明になっていたら、次のことをやって欲しいと」、ニーナのレイブ事件が録画されたスマホ等の証拠材料を添えたメッセージを送っていたのだ。
★さすがは、聡明なキャシー。
ⓒ警察の捜査により、キャシーの焼かれた遺体が発見される。
★ライアンのスマホには、キャシーからの最後のメッセージが届いていた。「愛をこめて。キャシーとニーナより」
★最後の最後でアベンジ(正義の復讐)が実行されたのである。RIP、キャシーとニーナ。
★感動の涙がどっと溢れた。現時点で今年一番の感涙である。

★映画一巻の終わりでございます。お楽しみ様でした。

❺まとめ
①近年の「#MeToo運動」、映画『スキャンダル(2019米・加)』、「伊藤詩織さんのレイプ事件」、そして、今年の「東京五輪組織委・森会長の女性差別発言」等々、国の内外を問わず、女性が被害者となる事件は枚挙にいとまがない。
②加害者の男たちは、「酔っていて覚えていない」、「レイプに加わらなかったから悪くない」と言い逃れる。「泥酔した女にも責任がある」、「自業自得だ」と強弁する。それに同調する女たちもいる。
③被害者が勇気を振り絞って必死に訴えても、男優先の社会は、男の言い分を重視する。
④本作は、そんな理不尽な世界に問題を提起した重みのある作品である。
⑤主人公のキャシーは、加害者でなくとも、傍観しているだけで、犯罪を阻止しなかったり、事実を追及しなければ、結果的に犯罪を容認したことになり、罪は逃れられないと断定する。
★その通りと思う。
⑥被害者が自殺したり退学したりして、不幸になっているのに、加害者は社会的に成功し、恵まれた生活をしている。
★こんな不条理は断じて許せない。
★その通りと思う。
⑦こんな世界にアベンジすることを決意したキャシーは立派だと思う。尊敬する。
⑧キャシーの尊い決意は、彼女の命を奪う結果になり、ハッピーエンドにはならなかったが、目的は達せられた。
★不条理な世界への警鐘になったと思う。
★現時点で本年度ベスト1の傑作である。

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❻トリビア:タリーマーク(Tally marks)
①日本では投票結果や事象の集計等をカウントする時「正」を用いるが、非漢字国では「////」のタリーマークが圧倒的に多い。
②タリーマークとは、5つ毎のグループでまとめる一進法の表記方法の一つで、度数分布、ヒストグラム等、品質管理を学んだ人にはお馴染みの方法で、大量のデータを取り扱う場合に最適である。
②タリーマークは、本作はじめ欧米の映画によく登場する。
ⓐ『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(2012米)Life of Pi』2013/1公開。漂流日数の記録に使用。
ⓑ『ルートヴィヒ(2012独) Ludwig II』2013/12公開。射撃成績の集計に使用。
ⓒ『SHIFT~恋よりも強いミカタ~(2013フィリピン)Shift』2014/9公開。
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