Iri17

プロミシング・ヤング・ウーマンのIri17のレビュー・感想・評価

4.7
noteに詳しくまとめたので以下コピペです。

元医学生のキャシーが、大学内のレイプ事件で将来を奪われ、命を絶ってしまった親友のために復讐をするという映画。という説明では簡単に片付けられない鳥肌が立つほどの大傑作だ。

この映画の特徴は直接的な暴力表現や性表現を避けている点。キャシーの復讐の詳細な描写は描かれないし、過去に起こった事件も映像として描かれることはない。これは『燃ゆる女の肖像』(2020)のようにここ数年で「流行り」の省略手法である。性的なシーンを描くことで女性や映画がポルノとして消費されることを拒否する意味合いがあるのだが、この映画では終盤のあるシーンにおける凄惨な暴力描写のみ長回しで描くことによって、現実社会に対する明確かつ強いメッセージを打ち出した。

promising【将来有望な、見込みのある】という単語の裏にある、差別や不正義に対する告発がこの映画は込められており、フェミニズム映画とか「スカッとする復讐劇」とか、そういう単純な構図に落とし込められない(落とし込ませない)ように作られている。

主人公もレイプされた友人ニーナも、promising young womanだった。しかし、男たちに好き勝手に凌辱され、さらに同じ女性たちからも告発を黙殺される。女性たちも「レイプカルチャー」に加担していることを意識させられるのだ。

性犯罪被害者の女性たちに対して日本でもよく言われる中傷や冷笑の類
「露出度の高い服を着ていた」
「女性の方に隙があった」
「誘っているような態度だった」
というようなものを社会全体が無意識に是認し、一部の女性もそれに加担している現実は確かにある。

僕も過去のnoteで書いているのだが、女性を差別する構造が根強く残っている社会では、女性は自らに向けられた差別を内面化し、その構造の中で“賢く”生きようとすることが多い。

例えば、女性が男性よりも収入を得にくい社会構造に対して異議を唱えるのではなく、男性を収入という基準で判断してその扶養に入ろうとすることは顕著な例だろう。

そのような”賢い女性たち”にとっての幸福は男性優位の差別的構造を持つ社会の中で得られる幸福なので、その構造に異議や不平を唱える女性は異端となる。よく痴漢防止のポスターなどで、「油断しない」とか「気を引き締める」とか、加害者側よりも被害者側に対するメッセージが多いのはこのためだ。立ち止まって考えれば、加害者がやめればいい話であって、女性が油断しないとか地味な服を着るとかは見当違いも甚だしい話である。
僕の出身の田舎の高校では、痴漢に遭った女子生徒に対して「スカートの裾を上げていたから狙われた」と全校集会で学年主任が中傷していたが、これも男性優位の構図を変えたくない男性及び女性の無意識の結果である。

この映画の、女性たちも「優しい男性」たちも被害を傍観し、黙殺し、男性優位の社会構造に加担し、一部のpromising young "man"のために女性の将来を奪ったのだ。この傍観し黙殺する社会構造を圧倒的なリアリティを持って描き、実際に現実世界には同じ構図がいくらでも存在していることを僕たちも日々の生活の中で実感しているため、映画を「傍観」している我々にも大きな罪悪感のようなものを感じさせる。

この映画は明らかに性差別的な人物を取り立てて描くのではなく、あくまで我々の周りにも当たり前のようにいる、あるいは自分自身がそうかもしれない無意識的な差別意識を持った人物を描く。観客である僕たちの無意識な差別意識や野蛮性を抉り取って突きつけているようだ。

僕は生物学的に男性なので男視点からの経験しか確かなことは言えないが、「男なら好きな女にいきなりキスするくらいの男らしさが必要」
「お酒いっぱい飲ませて酔わせてから勢いでホテルに行くのがいい」
なんてことは幾度なく言われてきた。上の二つに関しては男性からも女性からも言われたことがあるので、女性側にもある程度こういう意識を持ってる人がいるんだろうと思う。
好きな人に性暴力にを振るうことになりうることを僕はしたくないし、これが「男らしさ」なら男らしくなくていいなと思った。てかイケメンなら許されるかもしれないが、僕の顔面見てそんなアドバイスすんなや・・・

一部の女性がもし上記のような意識を持っているなら、勘違いした男に襲われる可能性があるので気をつけた方がいいですよ!
男の7割くらいは野蛮な獣です。

映画のラストで描かれるある“ウィンク”は、映画を見ているそんな無意識の加害性を持った僕たちに対する強烈なメッセージだ。

同じような構図を持った映画は(言い方は悪いが)近年大量生産されている。しかし、この映画ほどの深度で描いた作品は多くない。キャリー・マリガンのキャリア最高の演技も含めて、今年トップクラスの大傑作である。