Anima48

プロミシング・ヤング・ウーマンのAnima48のレビュー・感想・評価

4.5
お口で溶けて手で溶けない。小さいころよく食べたチョコはカラフルにコーティングされていた。黄・緑・青そして赤。今でもそれを食べると無邪気な頃を思い出す。けれどよく見るとその色は南米の猛毒カエルの色使いによく似ているような気がする。

昼間、可愛いカフェで働くキャリーはガーリーというか年齢からすると少女のような恰好で赤・ピンク・水色等の服に身をつつんでいる。コンサバティブというか少し幼児退行気味にも感じた。実家もデラックスな家具はそろっているがどことなく空き家のように古びて見える。夜の恰好はいかにもやさぐれた感やビジネスキャリアと様々。どんな格好・暮らしをしていても夜の街は女性にとって危険が付きまとうのかもしれない。そういった服はファッションではなくて、彼女の狩の装備だと思う、バットマンのマスクのような。

キャリーマリガンがいろんな表情を見せてくれる、ミュシャの絵、十字のキリスト、天使の輪や羽をまとったイメージとか。でもメイクの効果もあるんだろうか、ふとした瞬間に事件後から流れた月日を感じさせてくれる。心は復讐の天使として時間を止めてしまっているけれど、肉体は疲れを見せ始めているように見えた。怒りのストレスはすごく疲れるから。

なぜ危険な狩りを続けたのだろう。恐怖や屈辱の克服のため?やり場のない怒りをぶつける?それとも身勝手で気ままな欲望を満たしたい男たちの悪夢になるため?その全部かもしれないし、全く違う何かかもしれない。ひょっとしたら都市伝説を作りたいんだろうか?“夜に酔いつぶれた女性を見ても手をだすな,その子は致死性の毒を持っている。“

意外にこの映画に典型的な悪役は出てこなかった。人のよさそうな顔をしていて多分普段は良い奴で優しいお母さんで頼りになる先生やお医者さんで、そこに男性もいれば女性もいる。中には理想の恋人もいる。そして弱さもさらけだして、罪や過ちに動揺したりもする。でも誰もがこの問題に加担していて、無自覚だったり、傍観したり被害者の落ち度を責めたり、若いころの無茶だとごまかしたりして人生を過ごしてきた。被害者の時間は止まったままなのに。頭が切れて賢い、行動力もあるキャリーも事件の後、過去を捨てることが出来ず自分の人生の時間を止めている。この問題にかかわったら被害者を助けるアクションをしなければ善い側にいるつもりでも、誰もが共犯者になる可能性になってしまうのかもしれない、それは右手で正義を鉄槌を振り下ろしたら、悪党と一緒に自分の左手もつぶしちゃうようなこと。

忘れることも罪なんだろう。復讐をする前に自分のしたことを追体験させて、悔恨させるというのはすごく納得がいく。これが絶妙な塩梅だった。つまり罪を悔やんでいる人は前途有望な人になる猶予を与えるってことかな。反対に罪を罪として認識してないのが一番の罪なんだろうか?となると、世の中の大半の人は裁かれてしまう。

僕たちは、ニーナもキャシーも以前の人となりは知らない。でもそれとは関係なしに、事件は人を壊していく。そして両親は、娘の帰りをどれだけの間待つのだろう?どんな女性も、きっと誰かの大切な娘だったり母親だったりするのに。

復讐に暴力は使われない。ただ一箇所、肉体の強さはどうしても女性は男性にかなわない描写がでてくる、彼女たちがどんなに工夫・準備を凝らしても肉体的な暴力が姿を現した瞬間それは泡と消える。言葉などのソフトなコミュニケーションでは渡りあえることができても、ハードな腕力はそれを理不尽に壊していく。そこは誰もが気に留めなくてはいかないのかもしれない。

本当に重いテーマだけれど、理屈抜きに面白かった。問題意識をもてば頭を抱えて一晩中思い悩むこともできるし、極端な話、何も考えずに予想もつかない展開、ブラックコメディーからサイコサスペンス、復讐物、ホラー、ロマンスをハラハラしながら楽しむこともできる。それってすごく素敵なことだと思う。

・・自分が裁かれる可能性に怯えなければね。
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