えくそしす島

プロミシング・ヤング・ウーマンのえくそしす島のレビュー・感想・評価

4.5
【最も嫌悪する行為と、その後】

2021年アカデミー賞脚本賞受賞作品。

パッケージの印象や宣伝文句にある「復讐エンターテインメント」からは、想像できないほど奥深い作品。

監督:エメラルド・フェネル
脚本:エメラルド・フェネル
製作:エメラルド・フェネル、マーゴット・ロビー、他

あらすじ
キャシー(キャリー・マリガン)は、カフェの店員として平凡な毎日を送っている。その一方、夜ごとバーで泥酔したフリをして、近づく男達に裁きを下していたのだが…。

観終わった率直な感想は、「どう表現していいのかわからない」だった。

面白いと言っていいのか
悲しいと言っていいのか
最高だと言っていいのか
最低だと言っていいのか

ジャンルは
ジェンダーバイアス(性的偏見)、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)、性被害、女性軽視、ダークコメディ、スリラー、サスペンス。
ただそれらを混ぜ合わせただけではなく、そのどれもが一級品。そして混ぜ方は更に上をいく。

「ゴーンガール」を思わせる不穏な雰囲気もありながら、主人公の場面場面で変わるキュートなファッションが良いアクセントにもなっている。衣装を担当したのは、「ロスト・イン・トランスレーション」や「リトル・ミス・サンシャイン」のナンシー・スタイナー。

脚本に惚れ込んだ制作のマーゴット・ロビーと主演のキャリー・マリガン。
キャリー・マリガンは、エージェントに相談する前に出演の意志を監督に伝えてしまった程だ。

「会話劇」
セリフ一つ一つのチョイスが痛烈かつ激烈。そして本質を鋭く貫く。刺さるなんてものじゃない、文字通り「貫く」。

「性犯罪」
最も嫌悪する犯罪行為。被害者はその時に死ぬ。命が、ではなく尊厳が。
死にながら生きるというのはどういう意味か。囚われ続けるとは、壊れるとは。
もう、「戻れない」の意味を鋭利な刃物で視聴者にグサグサ突き刺してくる。

性犯罪や女性軽視を扱った作品は多くあるが「起こった事」に対しての直接的な表現や問題に主軸が行き易い中、今作は「その後の影響」を、広く、深く、過激な描写に頼らずに突き付けてくる。

パワハラにしろセクハラにしろ、やる奴はやる、やらない奴はやらない。と、考えがちだが違う、その二択じゃない。
最も影響があり、かつ根強く、自意識もないまま蔓延しているのは、その「中間」だ。この作品はそこをも直視する。

時に辛辣に
時にポップに
時にユーモアに

映画としての「面白さ」を維持したまま、ある種ドキュメンタリー作品よりもこの題材に踏み込んでいる。

ラストは賛否だろう。それはとても「映画的」だからだ。とある作品にも酷似している。だが反面、自分は安堵した。

良い意味で
ああ、「作り物」だったんだ、と。私にとってはそこに至るまでの方が辛くキツかった。

これは、アメリカの連邦最高裁判事を務めたRGB(ルース・ベイダー・ギンズバーグ)の有名な言葉。

「私は女性に親切にしてくださいと言っているわけではないのです。お願いしたいのは、男性のみなさん、私たちを踏み続けているその足をどけて」

そして、こうも言っている。
「本当の変化、永遠に残る変化は、すこしずつ実現していくものです」

この被害にあった多くの
昔の人、今の人、そして、これからの人

被害者が、加害者が、でもなく
中間に居る大勢の人達が、様々な方法で代弁していかなくてはならないのだろう。

“簡単に見えて、一番難しい“