垂直落下式サミング

刑事ジョー/ママにお手あげの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

4.5
敏腕刑事ジョーのもとにやって来たのは世話焼きでおしゃべりで世間知らずの過保護ママ。犬の散歩中にダウンタウンでギャング団同士の抗争現場を目撃してしまった彼女は、取り調べでは重要な情報を黙っていて、息子の捜査に協力し手柄をあげさせようとするのだが、親子はある陰謀に巻き込まれてゆく。
『ランボー3』が政治的に批判を浴びて低迷気味だったのを払拭しようとしたスタローンは、ライバルのシュワルツェネッガーがコメディ路線で新たな才能を開花させたのに対抗し、俺だって出来るんだぞ意気込んで自分もお笑いに挑んだが、結果は大惨敗。シュワちゃんと遜色ない好演をしてみせてはいるはずなのに、スライのコメディ路線は『オスカー』と『刑事ジョー』の二本で打ち止めとなった。
シュワちゃんの『ラストアクションヒーロー』は『レディプレイヤーワン』の元ネタとして再注目されているし、『ジュニア』に至っては男性妊娠の先駆けとして腐女子にすら認知されているというのに。
人には向き不向きがあるということなのか、スライのタレ目はスラップスティックコメディを演じるには悲壮的すぎるらしい。
しかし、そんなにひどい映画か?聞くところによるとスタローンの失敗作とまで言われているとか。嘘つけよ。これだからラジー賞を受賞した受賞しないなんてものは、くだらないというんだ。
酷評される理由は、アクションが少ないことと、主人公のマザコンっぷりと、ママのサイコっぷりが酷いからだろうが、真性マザコンの私から言わせてもらうと、非常によく親と子がそれぞれ互いに依存し合うリアルをとらえているように思う。
ジョーのママは、大人になっても「○○ちゃん」呼びするウチの母親と重なって見えて、個人的にたいへんに共感する。あれこれ世話を焼かれるのが自分も恥ずかしいんだけど、もうそれを受け入れちゃっていて、親子そろってどうしようもない感じ。
そういえば、スタローンが血縁上の家族とうまくいっている映画は珍しい。シュワちゃんは『トゥルーライズ』などのいい家庭人の役も出来るが、スライには家族円満なイメージがない。ロッキーも実の息子とは疎遠になっているし、ランボーは実家に帰るまでに30年くらいかかった。もとは自分で主役を演じるはずだった『バトルフロント』の企画は、父親という役柄が自分に合わないからステイサムに渡したんだと思う。
そんなわけで面白いので、評判なんか気にせずみてください。お袋に振り回される異色のスタローンをご賞味あれ。マザコン映画祭として『白熱』『マニアック』『楢山節孝』『母なる証明』『おおかみこどもの雨と雪』などの、濃ゆいタイトルに紛れ込ませて清涼剤として鑑賞するがよし。