backpacker

映画 えんとつ町のプペルのbackpackerのレビュー・感想・評価

映画 えんとつ町のプペル(2020年製作の映画)
4.0
スチームパンクディストピア映画。
※当方特に原作者信者ではございません。原作絵本未読、単体のアニメーション映画として先入観なく鑑賞しました。

本作、子ども向け映画の認識で見に行きましたが、大人も楽しめる、むしろ大人の方が楽しめる映画だったように思えます。

周囲は崖、海には出れず、煙突から登る煙により生じた分厚い雲が覆う空の下、星も空も見えぬ町。
町の地下には鉱山、掘り出すのは石炭。
煤まみれになって働く煙突掃除人=肉体労働者と、真っ白な服に身を包んだ異端審問官=支配階層の対比。
外の世界を想う者は異端審問官により処分される世界のため、疑問を表に出さず、空気を読むことで生きていく住人達。
そんな町において、空に輝く星を見に行く物語を、紙芝居にして話していた主人公・ルビッチの父・ブルーノは、1年前に行方不明となった。
ルビッチは、脚の悪い母のために、幼くして煙突掃除で稼いでいる。高所が苦手にも関わらず……。

世界観や主人公の設定からおわかりいただけますが、驚くべきことに、この映画は、割とハードなスチームパンク・ディストピア映画なのです。

このような設定であれば、もっと息詰まる鬱屈とした画面作りになることが多いのが普通です。
しかし、本作では
①超ロングショットによる広範囲描写
②見上げる・見下ろすようなアングル
③人物を写すときは全身が映るように
④明るい色使いと光り・明かりの演出(町は雲と崖で閉ざされ常に暗いため、町一面を煌びやかな明かりで覆っている)
⑤室内も広さがあるような見え方を意識
⑥背が低い登場人物(ルビッチ、母ちゃん)と背が高い登場人物(プペル、ブルーノ)で会話することで、目線が同じ高さにならないようにしている(②と同タイプ)
⑦素早いカット割の連続(絶え間ない画面変化)させて、意識を逸らす
等の演出を徹底しており、建造物の密集した町並みを広く見せ、閉塞感・暗い物語背景を感じさせにくくしています。

実際、冒頭の映画タイトルが出るまでのシークエンスでは、超ロングショットによる町全体の鳥瞰図、グルグル回るハイスピードカメラワーク、そして43回もの細かいカットの積み重ね。長回しはほぼ使われず、ゆっくりとしたシーンは皆無です。
この始まり方からして、この映画の手間をかけた隙のない作り込みが伝わってきます。

絵本のビジュアルを前面に出すためにとられたであろう、このような演出になったのだと思いますが、結果的に、ダイナミックでスピード感のあるジェットコースター的アクションの連続する映画となり、かなり暗い背景設定でありながら、子どもでも楽しめるアニメとして完成しているのだと思います。

鑑賞中に連想された作品は以下の通り。
『ダム・キーパー』(2014年 監督:堤大介、ロバート・コンドウ)
『パプリカ』(2006年 監督:今敏)
『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』(1984年 監督:スティーヴン・スピルバーグ)
『八十日間世界一周』(1956年 監督:マイケル・アンダーソン)
『MEMORIES(大砲の街)』(1995年 監督:大友克洋)
『スチームボーイ』(2004年 監督:大友克洋)
『カールじいさんの空飛ぶ家』(2009年 監督: ピート・ドクター、ボブ・ピーターソン)
『ロボッツ』(2005年 監督:クリス・ウェッジ)
『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』(2002年 監督:ジョージ・ルーカス)
『アイアン・ジャイアント』(1999年 監督:ブラッド・バード)

よく考えると、アニメ制作のSTUDIO 4℃は、上記『MEMORIES』と『スチームボーイ』を制作した会社でもあるので、スチームパンクに対する造詣が深い陣容だったのかもしれませんね。
backpacker

backpacker