映画ネズミ

17歳の瞳に映る世界の映画ネズミのレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
5.0
向いている人:現在中学生以上の人

 前回『プロミシング・ヤング・ウーマン』の感想で、作品の見た目のことを全然言えなかったのですが、今回もあまり言えそうにありません💦

 この映画では、主人公オータムの表情がすごく良いです。普通の表情、疲れた表情、何かをこらえている表情。ほとんど変わらないのに、ちゃんと感情が伝わってきます。これからがとても楽しみな女優さんです。

 従姉妹のスカイラー役の女優さんも本当に良かったです。物言わずオータムを見守る視線がとても優しかったです。

 ということで、皆さん、見てください!!


 ……で終わるのはさすがにモヤッとするので、もう少し語らせてください。

 まずこの映画、セリフが少なめです。特に主人公のセリフが少ないです。それだけ主人公は自分の妊娠が発覚して、世界に対して「助けて!」と言えない証拠でもあると思いました。

 田舎のクリニックで見せられるおぞましいビデオ。ニューヨークのクリニックの前で抗議デモをする群衆。家で笑いながらテレビを見る父親に、妹たちの世話に追われる母親。そうした人々を見るうち、オータムのような立場にいる人は、社会構造から孤独を強いられることもあるんだと思い、胸が締めつけられます。

 男の影が薄い(しかも出てくる男はクズしかいない)というのも、興味深いと思いました。どんなに寄り添っていても、オータムと同一の経験を完全に共有することはできません。それどころか、共有しようという気持ちや、関心すら持てない人が多いんだな、と思いましたね。

 そんな救いのない中、クライマックスが来ます。主人公がカウンセリングを受ける場面。オータムの表情の演技が爆発する瞬間です。質問に答えられず、涙を浮かべるオータムに掛けられる、「大丈夫(It's okay.)」の言葉。僕はここで涙が止まりませんでした。

 それだけでは十分でないかもしれないけど、その一言があるかないかで、世界は全く変わると思います。1人じゃない、と思えるだけで、少しでも救われるところがあるのかもしれません。

 僕も、困っている人に「大丈夫」と言ってあげられる人間になりたい、と思いました。どう決断しても、大丈夫と言ってあげて、静かに、一緒に受け止めてあげられる人間になりたいと思いました。

 最近、テキサス州で成立したハートビート法にも思いが至りました。人は、自分の体のことを自分で決める権利があるはず。それを妨げることは、誰にもできないはず。なのになぜ? 新たな命というのは、素晴らしいことだけど、それだけですか? そこには苦痛も伴うのに、時に命を失うかもしれないのに、「素晴らしいことだから我慢しなさい」と、自分の隣にいる人に本当に言えますか? 僕には言えません。

 『プロミシング・ヤング・ウーマン』といい、本作といい、女性の性をテーマに扱っていますが、広く「人としての尊厳」の話だと思います。自分と関わる人を尊重し、気遣う心についての映画だと思いました。両方ともセットで見てほしい作品です。

 映画に男性向け、女性向けなんてないと思っていますが、男性の皆さん、この2作は絶対に見なきゃダメです!!!
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