カツマ

17歳の瞳に映る世界のカツマのレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
4.3
悲痛なほどにくぐもる叫び。声に出したくても出せない痛み。ベタベタと男たちの視線は貼り付き、押しつけられる世界の全てが張り詰めている。世の中がこんなにも薄汚れてみえてしまうほど、彼女たちはいつも緊張や恐怖と隣り合わせの場所にいる。17歳の視線の先に見えている真実とはどんな景色?ニューヨークの雑踏に消えてしまいそうなほど、彼女たちの姿は小さくて、不安という名の渦中にあった。

今作は第70回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(監督賞)を受賞するなど非常に高い評価を受け、監督のエリザ・ヒットマンの名を一躍世界に轟かせた作品となった。思春期の最中にある17歳の女性から見た主観をもとに、望まない妊娠と男性からの性的な視点を問題提起的に描き出している。それは静かだが辛辣で、真実味があるだけに非常に重い。『プロミシング・ヤング・ウーマン』より遥かにエンタメ性が少ない分、メッセージが強烈に響く作りとなっている。巨大な痛みをずっと抱え続けるような、それは悲痛な慟哭を思わせた。

〜あらすじ〜

ペルシルベニア州ノーサンバーランド郡に住む17歳のオータム・キャラハンは、いとこのスカイラー以外の友達もおらず、両親からは無愛想なことを反抗期真っ盛りと揶揄されていた。その日も発表会の後に家族とギクシャク、オータムはヤジを飛ばした男子生徒に水をぶっかけてお店をあとにしてしまった。
そんな日常の中で、オータムは自身に妊娠の兆候があることに気付いていた。そこでペルシルベニア州内の危機妊娠センターを受診してみると、彼女は妊娠10ヶ月と診断されてしまう。州内で妊娠中絶をする場合は親の同意が必要、と聞いたオータムは、アルバイト先が一緒のいとこのスカイラーと共に夜行バスに乗って、一路、ニューヨークを目指すことに。ニューヨークならば親の同意が無くとも中絶は可能なはず。バイト先のレジ金を掠めとり、オータムとスカイラーは遠くバスを乗り継いでニューヨークの街に降り立ち・・。

〜みどころと感想〜

極力装飾を廃した作り。エンタメ性を重視せず、静かな映像と少ないセリフに痛烈なメッセージを封じ込めた、これぞ今の時代に必要な問題提起型の作品であると思う。分かりやすく男性という生き物が汚らしく描かれており、実際、このように見えるのが真実なのだろうと思わせる説得力がある。17歳の女性たちを観る男たちの視線は汚泥のように濁っていて、軽はずみなボディタッチもひたすらに気色が悪い。そこに、望まない妊娠、という要素が絡んでくるため凄まじい重さは避けられない作品である。

主演の二人、シドニー・フラニガンとタリア・ライダーの演技がとにかく素晴らしい。彼女たちの演技は作品の自然体のような演出に見事に応えており、それが尚更リアリティを引き起こしてくれる。この手の映画に必要なのはやはり真実味。そこには彼女たちのような等身大を滲ませてくれる役者さんたちの存在が必須だろう。他にもエンドロールの主題歌を担当したシャロン・ヴァン・エッテンが、主人公の母親役で出演するなど驚きのキャスティングにも注目だ。

邦題の『17歳の瞳に映る世界』はあくまで表面上のメッセージ。その奥底にはもっと深くて暗い闇が横たわっており、言葉には発せられないほどの悲劇があったことを予感させる。それをダイレクトに表現しないからこそ、この映画のメッセージは底なしの重さで持って、鑑賞者(特に男性)の心にズシリとした重石を置いていく。それはもっと多くの人に届くべき叫びの形。もう増やしてはならない嘆きの記憶なのだろう。

〜あとがき〜

『プロミシング・ヤング・ウーマン』も良い映画でしたが、メッセージの重みとしてはこちらの方が遥かに強く感じましたね。とにかく重く、苦しく、少しの日差しですら暖かく感じてしまうほどに。

男性としてのモラルと責任を感じつつ、そこにたくさんの問題提起を受け取ることができました。素晴らしい作品をものにしたエリザ・ヒットマンの次なる一手への期待を込めて。本当はこういう人の作品がオスカーにノミネートすべきなのではないか、、とも思いましたね。
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