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17歳の瞳に映る世界のBeSiのレビュー・感想・評価

17歳の瞳に映る世界(2020年製作の映画)
4.9
隠れた名作No.8「17歳の瞳に映る世界」

アマプラで見放題独占配信中。以前から観たいと思っていた作品のひとつ。観るなら今しかないと思い鑑賞しました。以下レビュー。

17歳にして訪れた予期せぬ妊娠。主人公オータムは中絶を決意し、従姉妹であり親友のスカイラーとともに保護者の同意が必要ないニューヨークへと向かうが......。


僕は17が一番好きな数字です。加えて、この数字が映画の題材として多用される理由は、他の数字に比べて "17" が多くの意味を持っているからだと感じます。色々なことが自由になる一歩手前の年齢。子供と大人の間で揺れる年齢。大人に一番近い子供として居られる年齢。何事においても試行錯誤を繰り返すことの多い年齢。これは僕の完全な主観ですが、17歳はくだらないことで笑っていられる最後の年齢であるとも思います。そんな複雑な年頃にスポットライトを当てた本作は、終始僕の心に深く刺さっていました。

✔アメリカの中絶を巡る問題
アメリカ合衆国史上最も政治論争の対象とされた "ロー対ウェイド事件" の判決が今年の6月に行われ、中絶の違法の是非の判断は各州に委ねるという判決が下されました。判決により、それまで激しさを増していた擁護派(プロ・チョイス)と反対派(プロ・ライフ)の対立は落ち着いたものの現在でも対立は続いており、加えて半分以上の州が中絶を禁止する方針を固め、中絶に対する規制が厳しくなった州が急激に増加しました。こんな状況下でも、ニューヨーク州は中絶に保護的な州のひとつであり、なおかつ中絶をするにあたって保護者の同意が要りません。しかし依然として、主人公オータムのような女性の選択と新たに産まれてくる命のどちらを尊重するのかや、各州政府の経済的状況を考えると、アメリカにおける中絶に対する考えや価値観の軋轢という社会問題は、解決が非常に難しいんです。

✔いつの時代も顕在的な女性軽視の現状
本編に出てきた4人の男性。短い出演時間でしたが、観客に強烈な印象を残してくれました。オータムの父親は、様々な言動から考えて恐らくミソジニストでしょう。主人公2人のバイト先の店長らしき男性は、売上金の精算後に欲を満たすのが日課。ニューヨークの地下鉄ではオータムを見て自慰行為に及ぶサラリーマンがおり、終盤辺りで登場した若者ジャスパーはスカイラーをナンパする目的で近づいて来ました。都会へ行くと本当にこういう人がいるんだなと呆れますが、やはり驚きもします。東京にも普通に居るんですよねこういう人。遠くから見ても分かる。純粋に怖いし女性が気の毒で仕方ない。男性はどんな女性に対しても何かしらの点で好意的な印象を抱くっていうのは、女性軽視や性差別と結びつくのかな。

✔主人公オータムの壮絶な過去
"一度もない、めったにない、時々、いつも" という原題には性被害者のセカンドレイプを防ぐ選択という意味が込められています。オータムがカウンセラーの質問に答えるシーンは映画の中でも特に印象に残りますね。これまでパートナーにどのように扱われてきたのかと想像するだけで心が痛む。役者ではなく、実際にカウンセラーとしての経験を持つ女性が相手役を演じているため、リアリティも凄い。

✔友愛
これは映画を観た多くの人が感じたことでしょう。2人の固く結ばれた友情の強さが垣間見えるシーンが沢山ありました。出発前日の夜、オータムと向かい合ってベッドに横たわるスカイラーが掌を広げて顔に触れるシーンが何とも美しいです。三目並べをするオータムとダンレボではしゃぐスカイラーを対比することで性格の違いを表現しているゲームセンターでの一幕がかなり好き。地下鉄で悲惨な目に遭いながらもお互いの指を交わすことで耐え抜く場面は涙無しでは観られない。オータムの中絶手術が終わった後の2人の会話は映されていないものの、2人が涙袋を赤く腫れさせて病院から出てくる場面も良かった。いつまでも一緒にいたいオータムとスカイラーの友愛には何度も心が打たれましたね。

✔演技、演出、映像美
主演のシドニーとタリアに拍手を贈りたい。17歳の女性という像を完璧に捉えた彼女たちの演技、台詞はあまりにリアル。クローズアップや手ブレを多用したカメラワークも相まって、ドキュメンタリー映画のように見えてきます。粗く淡いレトロな美しさがたまらない映像も見ていて心が洗われる。ネオン煌めくニューヨークの淡い感じが最高に好き。それにしても、ここ数年で類を見ない原石のような俳優さんが誕生しましたね......2人の今後の活躍に大いに期待します。


少女たちの勇気ある旅路に心打たれること間違い無し。今こそ世界に知られるべき一本。力強く、絶妙で、美しい、全てが並外れた傑作。
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