平野レミゼラブル

ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりからの平野レミゼラブルのレビュー・感想・評価

3.1
【パラレルワールド・ラブストーリー・イン・フランス】
東野圭吾の『パラレルワールド・ラブストーリー』って僕は原作も映画も観てないんですが、本作はそう呼称するしかない作品になっています。なんてったって、小説家として大成した主人公のラファエルとピアノ教師に甘んじた妻オリヴィアの関係性が一夜にしてひっくり返り、オリヴィアが人気ピアニストでラファエルは彼女と全く接点がないしがない中学校教師である世界に変わってしまったというお話なのだから!
なお、本作のメインはSFではなくてラブストーリーのため、何故ラファエルがパラレルワールドに行ったかについては不明でふわふわしています。一応、原因らしきものを推測する部分もあるのですが、そこは本質ではないというか。あくまで「立場が逆転しても変わらず愛せますか?」といった寓話的意味を持たせているだけのマクガフィンです。

冒頭はSF作家を目指すラファエルと、ピアニストを目指すオリヴィアの高校時代の運命的な出会いから始まりまして、そこから2人が結ばれ、そしてラファエルが成功を収めていく様子が爆速テンポで展開されます。
これがまた『超高速!花束みたいな恋をした』って感じでして、最初は喜びも2人でわかち合い互いに励ましながら進んでいたのですが、立場が変わることですれ違うことが多くなり互いに気まずくなる時間が増えていく…ってのを30分足らずでやり切っちゃうんですね。
そんな中で突如パラレルワールドに転送されてしまうってのは見方を変えれば、やり直しの機会が与えられたってことでもあるんですが、接点自体も消えちゃっているので中々のハードモード。

そんな中でも悪友のフェリックスは、ラファエルが直面した緊急事態をいち早く理解してくれまして、彼の助力もあって有名人となったオリヴィアに接近。このフェリックス、元の世界でもパラレルワールドでも変わらず悪友としてつるんでくれるので超良い奴です。考えようによっては、オリヴィア以上に大切にすべき存在。
まあ、そこからは彼女のことをよく知っているアドバンテージを駆使してもう一度最初から恋をやり直していくワケです。ここら辺、異世界転生じみていますね。役職は元の世界よりも下がっているけど。

既にオリヴィアには婚約者がいるのに、構わず突き進む辺りはなんともおフランスって感じですが、まあ基本コメディ調なんで深く考えちゃいけない。
そもそも、パラレルワールド系は一度考えだすと「パラレルワールドに元からいた自分は何処に消えたんだよ?」とか、どうやったってパラドックスに行き着くので感じるがままに観るべきなのです。
とはいえ、フィーリングだけじゃどうしても納得いかない部分ってのも結構ありまして……

まず一つ、ラファエルに小説家としての業があまりにない。
彼がパラレルワールドに転移して嘆くことってのがオリヴィアを失ったことのみでして、自身が小説家として築き上げてきた地位とか書き上げてきた作品が消えてしまったことに関しては全く執着していません。流石にそれは小説家としてどうなんだ……
本作はラブストーリーのため、オリヴィアとの恋のみを取り上げる意図はわかるのですが、よく自分の作品に対してその程度の思い入れで大ベストセラー作家になれたなってのはどうしても思っちゃうんですよ。
彼の描くSF小説は、映画中でもやたら凝った衣装やアクションで映像再現されているんですが、それだけの気合ってのがラファエル自身からは感じられませんでした。そのため、彼が売れっ子小説家であるという説得力を失っています。

二つ目、いくらパラレルワールドと言えど、ラファエルがそちらの世界での暮らしをナメすぎている。
いや、パラレルワールド初日に自分のことを売れっ子作家だと思い込んでいる一般中学教師と化して奇行を繰り広げるのは良いんですよ。生徒に電波言動をしまくった挙句、授業放って出て行っちゃったのが問題にならないのはおかしいけど、それもまだ流せる範囲なんですよ。
ただ、パラレルワールドで中学教師として何カ月も過ごした上で、またしても何日も授業放り出すのは流石にどうかしている。元の世界の立場と比較して、中学教師を腐す傲慢さを反省した上でこの態度ですからね。
フェリックスが言うには、パラレルワールドのラファエルは結構評判の良い教師だったとのことなので、もう一人の自分に対しても不誠実です…あれ……でも、こっちのラファエルは何処へ……ああ!またパラドックスに辿り着く!!

三つ目、超高速でオリヴィアとの結婚生活破綻を描いたせいで感情移入できない。
これが一番の問題でして、僕がどうにも余計なことばかり考えだしてしまった要因もここにある気がします。ラファエルが地位を築くにつれて、どんどん傲慢になってしまったというのは、パラレルワールドでの態度から何となく察せられるんですが、元の世界のオリヴィアがどのような性格になっていったのか全くわからないんですよ。
長く一緒に過ごすにつれて、変わっていくのはどちらか一方だけではないはずです。それは例に挙げた『花束みたいな恋をした』でもそうでしたね。菅田将暉も、有村架純も、お互いに社会人として成長したからこそズレが大きくなってしまっていました。
なので、本作においてもラファエルだけではなくて、オリヴィアの心境ってのも変化しているハズなんですよ。ラファエルの方だけ評価されることへの焦燥感、羨望、嫉妬……彼女のこれらの心情の変化もしっかり把握しなければ、いくらパラレルワールドでやり直そうとしても意味はないんじゃないかって感じてしまう。そして、ラファエルは自身を省みることがあっても、オリヴィアがどう感じているかってのは終始考えないまま突き進んでいくのです。
そのため、パラレルワールドでも結局破局に向かっていくんじゃないかな……なんて気持ちで観てしまっていたため、イマイチノレないところではありました。

とは言え、これは間違いなくこんな捻くれた観方した僕が悪いところではあるので、本当深く考えずに観ればしっかり楽しめると思いますよ……!