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2012のbackpackerのレビュー・感想・評価

2012(2009年製作の映画)
3.0
「手前、一介のボンクラ映画好き、エメリッヒディザスターを定期的に摂取する渡世人で御座います。久方ぶりに"エメリッヒ映画集中鑑賞期"となりまして、本作も4年ぶりの鑑賞と相成りましたので、ご挨拶申し上げます。以後、昵懇万端お頼申します」

2021年9月現在、ローランド・エメリッヒ監督印のディザスター映画の中でも突出した大破壊を描いた、頭のいかれた飛び抜けボンクラ映画の大巨編、『2012』!
4年ぶりの鑑賞となりましたが、いつ見ても本当に酷い(褒め言葉)映画ですね。

地球をぶち壊すことにかけては右に出る者がいないエメリッヒ監督ですが、過去には、『ID4』で巨大円盤による大規模攻撃、『デイ・アフター・トゥモロー』で氷河期到来、『紀元前1万年』でピラミッド建築をぶち壊す……と、もうなんもかんも壊してしまった人です。
行き着く先は、地球全部まるごとぶち壊す!だったわけですが、その答えが一時期流行ったマヤ暦のあれこれの預言を下地にした地球崩壊映画だったわけです。
(相変わらずスティーブン・スピルバーグ作品のオマージュも感じられます。)

話を簡単にまとめれば、「地球の核が熱〜くなって陸地は沈むから、方舟作って選ばれた者を救出するゼ」映画ですが、この映画を見るたびに思うことがあります。
それは、「地球がバラバラになるような大惨事なんだから、もうちょっと見せてくれよ……」です。

本作の山場というと、リムジンで地割れに呑まれる街並を逃走するシーンくらいです。中盤ですね。
群像劇にしてるくせに、そういう大惨事で死んでく人目線が、国民と共に死ぬ道を選んだ合衆国大統領(と、祈りのために残ったイタリア首相)程度で、ま〜物足りない。
正直、主人公家族の関係再構築にまつわるアレヤコレヤとか、ロシア人金持ちのどーのこーのとか、こんなに長い尺取る必要ないんだわ!
ましてや、ルーブル美術館のくだりなんて、どーでもいいよこの際そんなことはよう!!
もっと、逃げ惑い崩れる地面に呑まれる民衆だとか、津波がビル群を突き進む様子とか、そういうあらん限りの破壊を、大量に見せてくれよ!細々といらんことせんでもいいのよ!
というのが本音です。

ひときわいらない展開としては、ラストの主人公一家密航潜入にて、自分らのミスで歯車に絡んだケーブルを外すべく奮闘するくだり。いらんがな、こんなサスペンスシーン。
このとき主人公達のミスで死に直面してた船内の数万人の人々は、いったいどんな気持ちだったのかしら?ということが気になるくらいで、実にどうでもいい展開です。

そもそも、過去作から共通しておりますが、エメリッヒ監督は割とあっさりと登場人物を殺してしまうのですが、本作では切り捨てっぷりがいっそ冷酷と言えるほど。
特に、道中ずっと行動をともにしてきた、別れた女房の今彼のゴードンの扱いは容赦なさすぎます。
息子から「ゴードンともっと話をしてよ。きっと仲良くなれるよ」なんて言わせてるくせに、しごく淡々と殺します。
なんでゴードンを見捨てたんだぁ!みたいなシーンになりそうなものですが、上述のケーブルの件で有耶無耶になるその冷淡な展開は、まったくもって度し難い。人情とかないんか?


【大問題提起:選び抜かれた人間だけが、生きていく】
方舟に乗れるのは、世界の叡智の結晶と言える人々と、技術者・軍人等の方舟管理に役立つ人、そして金を積見まくった人、これに限られています。
この圧倒的非情と共に突きつけられる格差。
持たざる者は死に、才能あるものだけが生き延びる、これは現代社会に蔓延る優勢論であり、ハリウッド的リベラルが煽り立てる上澄み層へのポリコレ的配慮の強烈な具現化でもあります。
でも本当のところ、生き残った人たちは、アフリカの地に降り立ち、再び人類復興を目指すんでしょうけど、遅かれ早かれ滅亡すると思いますよね。
だって、世界の日常を動かしていたのは、ほんの僅かな"選ばれた者"ではなく、圧倒的大多数の我々普通の人なわけですから。
アフリカの地で方舟の民が生きていくには、多大陸同様甚大な被害を被ったであろうアフリカの地で、その地に住む人々から奪い、労働力として隷属させ、強制的に君臨する以外道はないと思います。
そのための武力ですから、軍人が力を発揮するのはまさにその場面(船内での反乱鎮圧や軍事支配体制構築は別として)。

これまで捨て置かれ、古くは奴隷狩りにあい、植民地として支配されたアフリカ。
挙句の果て本作では、大地震やら気候変動やらで大変な被害を被り、アフリカ各国政府機能等もどうなっているかまるでわからないタイミングでやってくる、西欧白人的考えの方舟の民。
アフリカの人々にとって方舟の民が招かれざる客となるのか、未来を生きる上で共に進むパートナーになるのか、そこまではわかりません。
でも、こんな独善的な優遇措置の果てに流れ着いた残存人類のエリートなんて、信用できないんだよなぁ……。

とにもかくにも、この選び抜かれた人間(方舟の民)だけが生きていくということは、アフリカの地でどのような道を取るのかわかりませんが、容易ではなく、むしろ破滅しかないと想像されますので、彼らが苦しんで死ぬときには、是非我々顧みられず切り捨てられた普通の人々の存在のありがたみを思い出した上で、死んでもらいたいもんですね。


ツッコミは数多く出てきますが、それでも本作の凄まじいディザスターは他にはない(そうポンポンあっても困りますが)シロモノですので、たまに見たくなってしまうのが、我ながら救いがたいなと思います。
今後も、エメリッヒ監督の事務的で機械的な演出過多の、容赦ないディザスター作品を楽しみにしたいと思います。
『Moonfall』公開、待ってるゼ!
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