おなべ

三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実のおなべのレビュー・感想・評価

3.8
「私は諸君の熱情は信じます。これだけは信じます。他のものは一切信じないとしても、これだけは信じるということを分かっていただきたい」

◉1969年5月13日、東大駒場キャンパスの900番教室で行われた1000人の極左の東大全共闘の学生と極右の《三島由紀夫》との大討論会。議題は多岐に渡り、《三島由紀夫》のレンズを通して、過激な学生運動が盛んな時代の中で見い出す自己や思想、天皇について言及している。

◉正直、この作品を観ただけで《三島由紀夫》という人物を語るのは全くお門違いだけど、人間的な興味としては観る前と後では大きく変わった。1000人の血気盛んな若者を相手に言葉を持って、言葉で制す(答える)怜悧さや聡明さが伝わり、また、文学的視点からではなく、ちゃんと天皇に敬意持った1人の日本国民として様々な事柄に正直な心内を偽りなく話したりと、真っ直ぐ筋の通った人柄に魅力を感じた。

◉この時代の学生や《三島由紀夫》の“熱情”を目の当たりにして、余計に自分が恥ずかしく思う。左翼にも右翼にも属さず、これといった信条も無く、時代に流されるままに生活を送る事の虚しさを感じ、変わりゆく社会の流れに身を投じているだけの人間…こんな人間ほど退屈で無益なものは無い。必ずしも信条を持つ事が正しいとは限らないけれど、いつの時代でも何かを変える事の出来る人というのは、彼らのように思想や行動を持ってして自分や考えを示し、何かしらの“熱情”があり、瞳の奥は輝きに満ちている。

◉結果的に全共闘は崩壊し《三島由紀夫》は45歳にして自らこの世を去ったけど、少なくとも彼らは時代の一部となって世間に影響を与え、現代に生きる我々に日本人の抱える問題定義とその答えを示してくれたと思うと、この大討論会や諸運動、そして思想や芸術は非常に意義のあるものに見えてくる。
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