このレビューはネタバレを含みます
三島由紀夫と東大全共闘の討論会の記録を描いた、ドキュメンタリー作品。
「右翼1人vs左翼800人」という煽りは、めちゃくちゃ面白いなと思ったし、どんな討論会になるのかと興味深いものがありました。
で、実際に三島由紀夫は単身で会場に乗り込むわけですけど、意外にも全共闘を称えるんですよね。
時にはユーモアも交えて、笑いを取ったりもして、想定していたバチバチ感はなし。
全共闘側もまさか自分達が持ち上げられるとは思いも寄らず、虚を突かれた部分があったのでしょう。
その後の討論は芸術論というか、観念的な話が多く、あまり政治的な主張の争いが見れなかったのは残念な部分。
個人的には「主体性のないものにエロティズムを感じる」という話が印象に残ったかな。
定期的に萌え絵を使った広告が炎上しますが、その原因はここにあるのかもしれません。
討論自体は難解で分からない部分が多かったものの、その分、三島由紀夫という人間の魅力は伝わってきました。
学生の話をバカにせずに、きちんと聞くし、聞かれた事にはちゃんと答える。
昨今、流行の論点ずらしの論破芸とはまるで違う、誠実で敬意のこもった本物の対話がそこにはあります。
ゴリゴリのマッチョな右翼でありながら、困った時には笑ってしまう可愛げもあったりして、こりゃ皆が惚れるわけだな~と思わされましたよ。
顔もなんだかトニー・レオンみたいでカッコ良いし、とにかく絵になる男なんですよね。
三島由紀夫と言うと、どうしてもクーデターや自殺のイメージが強いと思いますが、そういう人にこそ、見て欲しい作品だなと。
三島由紀夫の良いところだけでなく、民兵組織を作ってしまうヤバい一面や、天皇へのアンビバレントな心情など、本作を見れば、三島由紀夫の人間性がざっくりと理解出来る事でしょう。
結局、討論自体は最初から最後まで大人と子供の構図と言いますか、三島からしたら学生達に胸を貸す様なものだったのかもしれません。
しかし、方向性は違うとはいえ、両者の日本を想う熱い気持ちに変わりはなく、同士を見つけたかの様な嬉しさもあったはず。
三島が嫌うのは思想云々以上に、冷笑的な人間だったと思うし、そこに関しては私も同意するところで、日本全体が日本に熱くなれた、この時代の事を少し羨ましくも思うのでした。