りょう

モールスのりょうのレビュー・感想・評価

モールス(2010年製作の映画)
4.2
 オリジナル版の「ぼくのエリ 200歳の少女」もリアルタイムで観ていて、その世界観に魅了されたので、当時は原作翻訳の文庫本上下巻を購入して読みました。ハリウッドでリメイクということだったので、「またそのパターンか」と思いましたが、オリジナル版の脚本に忠実な展開で、1983年に設定された時代と背景なども物語にマッチしています。
 主演のクロエ・グレース・モレッツはどうにも「女の子」でしかなく、オリジナル版のエリのような中性的な雰囲気がありません。何かと話題になる「ぼかし」のシーンもこの作品にはなく、「女の子じゃなくて、何十年、何百年も生きているヴァンパイア」という解釈で簡略化されているようです。オーウェンの父親は登場せず、母親の描写も意識的に匿名化されています。近所の中年グループや猫たちの描写もありません。
 そんなふうに物語をシンプルに再構築している一方で、その時間を2人の丁寧な描写に割いているので、オリジナル版と比較して劣化したという印象にはつながっていません。ただ、エンディングのプールの惨劇は、圧倒的にオリジナル版が素晴らしいです。2022年の「The Batman」の劇伴が秀逸だったMichael Giacchinoは、ここでも安定した編曲と印象的なメロディを提供しています。
 極寒の街を舞台とした日中に行動できないヴァンパイアの物語で、どうしても鬱屈とした雰囲気になっているので、誰もが共感できる作品ではないかもしれませんが、それではあまりにもったいない秀作です。
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