みおこし

ミナリのみおこしのレビュー・感想・評価

ミナリ(2020年製作の映画)
3.4
アカデミー賞6部門ノミネートの話題作を鑑賞。

1980年代、農業で成功することを夢見て米・アーカンソー州に引っ越してきたある韓国系移民の家族の物語。
いわゆる"アメリカン・ドリーム"に思いを馳せ、胸を高鳴らせる夫ジェイコブ。一方、新たな環境でやって行けるのか、そして心臓に持病のある息子デヴィッドが心配でならない妻モニカ。家族として、ひとつの目標に向かって突き進まなければいけないけれど、夫婦それぞれの思惑がありそうなオープニングから始まり、みずみずしい自然描写も交えながら淡々と彼らの日常が綴られていきます。

日々大量生産されるハリウッド映画を見慣れていると、「主人公たちが葛藤にぶつかりながらも何か大きな目標を達成して終わり!」という王道の流れを自然と期待してしまうのですが、本作で描かれる物語はもっと深淵なもの。単なるゴールを達成するだけでは終わらない、むしろ彼らのゴールは簡単に可視化できるものではなく、苦難を乗り越えた後も人々の人生は続いていく...。そんなメッセージを伝えてくれる作品でした。
観終わった後、"Life is hard, but..."なんてフレーズが脳裏をよぎりました。人生は苦難の連続だけど、そんな中でも堅実に日々働き、人を愛し、コツコツ積み重ねていったその先にこそ、幸福は待っている。『ソウルフル・ワールドと同じテーマをはらんでいたけれど、当たり前の日々にこそ人生の煌めきはたくさん転がっているのかもしれない。

と、まとめてはみたものの正直なところ私には少しハードル高めだった...!(笑)「大変なことも家族なら乗り越えられる」なんて綺麗事じゃ片付かないくらいに、波乱が起きまくり。一家の大黒柱としての決断が求められるときに、周りを振り回してでも夢の実現に固執するジェイコブに終始イライラしてしまい、終始現実的に考えて誰よりも我慢しているモニカが気の毒でなりませんでした。
一方で、子役の2人と、オスカーにノミネートされているユン・ヨジュン扮するおばあちゃんのやり取りは、そんなイライラを緩和させてくれるほっこりシーンが多くて癒し。でもイマイチおばあちゃんの立ち位置というか、作品の中でどういうメッセージを伝えたい存在なのかが分からず、少しモヤモヤするエンディングでした...。

本作はキリスト教の倫理観が分からないと掴みづらいとは聞いていましたが、やっぱりそれが理由なのかなぁ...。素敵な作品だと思ったし、タイトルの『ミナリ』=セリ(たくましく地に根を張り、2度目の旬が最も美味しいとのこと)が持つ意味もぴったりだったのですが、個人的には今年のノミネーションの中では『ノマドランド』の方が好きでした。

ウィル・パットン扮するポールの存在感が凄まじくて、観ながら爆笑してしまいました(笑)。
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