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ミナリの2049のレビュー・感想・評価

ミナリ(2020年製作の映画)
4.5
 アーカンソー州の田舎町へと移住してきた韓国系移民家族の生活をリアルに映し出したドラマ。

 夫のジェイコブは広大な土地を開拓し大農場にして一攫千金を夢見る。本人の野心と家族に楽な暮らしをさせたいという願いが入り混じり躍起になる。子ども達に父親として大きな背中を見せたいという気持ちもあるだろう。韓国人としての誇りや意地も感じられる。アメリカドリームを掴めば冷たい妻も惚れなおしてくれるはず。
 立ち上る煙を眺めながら「役立たずにはならない」と呟くジェイコブには重くのしかかる責任も感じられる。

 妻のモニカはジェイコブとは違い我慢強く現実的で目の前の生活と子ども達のことを考えている。多少生活が苦しくても家族が一緒にいられることが一番であり手に余る豊かさは望んでいない。

 どちらの気持ちも理解できる。しかし相容れない両者の溝は深まり、生活は困窮する。互いに理解してもらえない苛立ちは募るばかりで、子ども達は両親の不仲を心配して
 
 1980年代のアメリカ田舎町でアメリカンドリームを掴もうとする家族をカメラは淡々と映し出す。ひたすら努力しても上向かない生活、頑張れば頑張るほど裏目に出る。生活は困窮し、思いもよらない困難が次々と立ち塞がる。

 しかしどれだけ夜が暗くても朝はやってくる。祖母の心を救おうと駆け出すデビッド、家族が川の字になって寝るのを見つめる祖母、そしてあのラストシーン。全てに小さいながら希望が見てとれる。たとえ小さくてもその希望は芽吹き、大きくなっていくはず。

 決して派手な映画ではないが、日々のままならない生活を優しく照らす希望が本作には確かにある。鑑賞後胸に広がる温もりこそが本作の持っている力だと思う。文句無しの傑作だ。
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