うべどうろ

MINAMATAーミナマターのうべどうろのレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
3.2
これはジョニー・デップの映画だと思う。水俣病でもなくて、ユージーン・スミスでもなくて、彼がそのキャリアを精算し、今自ら置かれている状況を克服するための「使命感」が克明に記録されている映画。その点においては評価されるべきだと思うし、この映画のジョニー・デップは確かに全盛期の彼のような覚悟があるようにも思われる。その風体の醸し出すオーラ、必死に訴えかけようとする目線の動きなど、俳優として生きている。
 さらに言えば、カットの選択もとても心地よい。運動と静止のバランスとリズムが良くて、一例をあげるなら、チッソの社長が最初に登場するシーンのドリーはこれしかない不穏感をまとっていたように思われる。それ以外にも、煽りカットの窮屈な画角選びなど、とにかく「緊張感」を途切らせない秀逸な撮影だったように思う。
 しかし、その一方で、これを「水俣病」の映画として見ることは不可能だろうとも思われた。時系列や場所の錯誤はもちろんのこと、誰一人としてその病に向き合っていないことが決定的に問題だと思う。誰しもが「チッソ」とは闘っているのかもしれないが、病とは向き合っていない。だからこそ、ユージーンはカメラを恐れていないのだ。彼自信が語る「写す者」としての恐怖が、この映画全体に流れていない。それはある意味で、「水俣病」を映画にするという覚悟、土本典昭にあるような覚悟がないということだ。
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