永遠の寂しんぼ

MINAMATAーミナマターの永遠の寂しんぼのレビュー・感想・評価

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
4.4
『これをアメリカに作ってもらう日本って…』

実は、当初は観るつもりはなかったものの父に薦められて観た。父の父、つまり僕の祖父が熊本出身だから薦めたかったのかな?結論から言えば事前の予想よりもずっと見応えのある傑作で、この年最良の拾い物になった映画だった。

今までの経験上(大した経験じゃないけど)、この手の実話ベースの映画はその性質上話が単調でエンタメ性が薄く、『考えさせられる良い映画だった』以外の感想が出てこないものが多い印象だった。実際この映画は全くもってエンタメ映画ではなく、単調なシーンもままある。それでも内容に結構引き込まれたのはこの映画自体の完成度の高さからではないかと思う。役者の演技や風景の絵作り、劇伴音楽のマッチ具合が高く、内容は重いものの飽きずに集中して観ることができた。

映画を観た後に知ったが、この映画は一部事実とは違う、脚色されたシーンもあるようだ。主人公の写真家ユージン・スミスが水俣病の元凶となった会社チッソとその被害者達の実像に迫っていく訳だが、その過程で彼はチッソの社員に酷い仕打ちを受ける。中盤の彼が写真の現像に使っていた小屋の出来事は実際はなかったらしいし、脚色でチッソ=悪と強調してしまっているのは否めないだろう。でもまあ、ユージンがチッソ社員に暴行を受けて負った怪我が彼の死の遠因になったのは史実のままらしいし、許容の範囲内かな?

一人の日本人として自国で起きた重大な公害問題について、学校の授業で学ぶ以上に考えさせれる良い経験になった。日本にとって重要なテーマ、風化させてはいけない事柄を扱った今作をアメリカに制作してもらって、日米合作ですらないのは情けない話だと思う。実際劇中の舞台になる水俣の町は現地ではなく、海外で再現されたものらしいし。それに肝心の水俣市でも今作に対してネガティブな意見もあるようで残念。臭い物には蓋をしたいって事?でも現地の人には部外者には分かりえない気まずさがあるのかもしれない。

とりあえず薦めてくれた父に感謝。