あーさん

おらおらでひとりいぐものあーさんのレビュー・感想・評価

おらおらでひとりいぐも(2020年製作の映画)
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邦画を観よう!シリーズ③
(沖田修一編)

うちの母は、外ではしっかり者で通っているが、実はとても面倒くさい人だと思う。
商家の長女で跡取りとして育ったが、祖母と折り合いが良くなかったせいか、人に気持ちを伝えるのがとても下手な不器用な人である。
そんな母が今作の原作小説にハマったらしく、何年か前によく話していたことを思い出した。
"映画はまたちょっと、解釈が違うのよね…"とも。
そんな経緯もあってこちらに興味を持ったのだが、親の思い通りにされたくない、と実家を出た所も含めて、主人公の桃子さんを見ていて、あ!母に似てる…と思った。。

夫に先立たれて数年後、75歳の桃子さんの人生を自身が振り返り思う事、悲しみ、諦め、怒り、迷い、喜び、安堵、、等の日常の生活に浮かび上がる心の声を拾いながら、その日々をつらつらと描いたとてもユニークな作品。

が、沖田監督らしからぬ?トリッキーな演出に、ちょっとばかり戸惑う。。
大好きな'南極料理人'、'横道世之介'を観た後に、'キツツキと雨'を観て、おや?となった感じともまた違う。

原作は、史上最年長63歳で芥川賞受賞した若竹千佐子の小説。
先に読んでみたけれど、これがまた関西出身の自分には東北弁全開で読みづらく、ほぼ一人語りなので少々単調、理屈っぽい桃子さんにあまり共感できない私は、読んでいてちょっとしんどかった。。
桃子さんは、原作者自身の投影なのだろうか?
頭が良い人なんだろうけど、完璧主義なのかな?
家族との関係といい、自分の気持ちと行動がチグハグな感じで、不器用さもハンパなく、、
もっと素直になれば良いのにな💦
途中で、もうやめようかな…と何度本を置いてしまったことか。
感情を押し隠す人は苦手だ(多分、自分もそうだから。見ていて辛い…)。
しかし、どうしても理解が及ばない時がある母のことを理解したい!との思いで読み進め、やっと読了。
その補完で、今作を観始めたのだった。。

いやー原作と映画では全然違う解釈なんだけれど、でもゴールは同じだったような気がする。
古い価値観を打ち破って、"新しい女"を目指していたこの世代の女性たち。
その立ち位置が理解できていなかったから、きっと違和感があったんだな。
そして、地方から都会に出てきて違う自分になりたかったのに、やっぱり懐かしく思うのは捨てたはずの故郷の言葉だったり、人だったり。母の姿と重なる。
女性が自分らしく生きられなかった世代の人達の気持ちに寄り添った作品なのかな、と思えた。

桃子さんの分身として、さみしさ1、2、3をクドカン、濱田岳、青木崇高が演じているのだけれど、何このナイスキャスト!笑
楽し過ぎるメンバー♪
急に現れては歌ったり踊ったり、コントみたいなことしてみたり、ジャズを演奏してみたり。。そのうち桃子さんも一緒になって!
私も歌ったり踊ってしまったじゃないか笑
でも、どうせ の六角精児はいらないかな。。😅
こんなのは原作に全く出て来ないから面食らったけど、これがなかったら地味〜で単調〜で映画としては厳しかったのかもしれない(それはそれで、深みがあるのだけれど、映像としては…)。
他にもマンモス🦣とか46億年の歴史とか、桃子さんの妄想のような時間があって、なかなかシュール。
公式ホームページを見ると、今泉力哉、白石和彌 両監督が"おもちゃ箱をひっくり返したような映画。やりたい放題""いっぱい遊んでる""キラキラ映画"なんて褒め言葉をコメントしていて、確かに、、と思う節もある。

本来淡々としているのが生活で、夫との死別をドラマチックに描くのではなく、あくまでも桃子さんという女性の内面にフォーカスして綴っていくというやり方。
原作ありきだけど、そこにコメディタッチな沖田要素も放り込んで、なかなか攻めてるなぁ、、と改めて思う。(さすが、監督たちの視点が的を得ている!)

勿論、これは桃子さん役の田中裕子の演技がないと成り立たないのでは?とも思う。
実は田中裕子はあんまり好きではない('おしん'を観てから💦)のだけど、、良い歳の重ね方をしてる数少ない女優さんかも。
ちょっと好きになった♪

…とここまで書いて、あれ?キャストが良いなぁとは思ったけど!
この展開の仕方とか、変な妄想シーンが挟み込まれるとことか!NHKの朝ドラっぽくない⁈
キャストも、
田中裕子→おしん、マー姉ちゃん、
田畑智子→私の青空、
青木崇高→ちりとてちん、
宮藤官九郎→あまちゃん、
濱田岳→カムカムエブリバディ、
三浦透子→カムカムエブリバディ、
東出昌大→ごちそうさん、
鷲尾真知子→澪つくし、、

朝ドラファミリー、オンパレード❗️
たまたまなんだろうけど、すごい朝ドラ率。。
(朝ドラは関係ないけれど、息子の同級生の警察官役が黒田大輔⁈遠くの息子より近くの、、岡山天音!笑 東出昌大が若い頃の桃子さんの夫役なんだけど、こんな風に自分の家族とも過ごしてあげたらよかったのに、、なんて余計なこと考えてしまう…💦)

ラストは、頑なな桃子さんの心に一筋の光が射すような後味の良さ。
孫の存在が有難い。。(孫が思春期になったら、娘も母に感謝するから!ね、桃子さん♪)
ここまでのプロセスは、桃子さんが前に進む為の葛藤だったんだな…と腑に落ちる。
夫の修造のことは心から愛していたけれど、これからは自分の為に生きる。
愛でごまかさないで、自分を生きる。
そんな桃子さんの決意が感じられた。

私自身にはまだ早かったようだけれど、母の気持ちに少し近づけた気がする。
桃子さんもちょっと面倒くさい人だった笑




追記

母のこと、父と母のこと、夫婦のこと、、もう少し掘り下げて書こうと思っていたけれど、レビューだけで長くなってしまったので、ここに少し。
夫婦には、夫婦の数だけ歴史があって、勿論自分自身にも。
よく生きたー!!と思って死ねたら良いなぁ。
どっちが先か、わからないけれど、残された方の生き方が問われるなぁ、と思った。
願わくば、同時に逝きたいけれど、、残されたとしても、
私は、最後まで明るく悔いなく生きたい。
あーさん

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