ヤマダタケシ

事故物件 恐い間取りのヤマダタケシのネタバレレビュー・内容・結末

事故物件 恐い間取り(2020年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

2020年9月2日 川崎チネチッタで

【青春の終わり】
 ホラー映画ではあると思うのだがストーリーの基本は〝クリエイティブ若者コンビメジャー・インディー地獄〟って感じだった。
 自分たちではいいと思っている笑い(冒頭のライブシーンからその尖り方は感じないのだが)が受け入れられないコンビ芸人。10年間続けたコンビは解散し、ネタを書いていた相方は放送作家に、主人公はピン芸人になる。
 自分ではネタを書けない主人公と、自分のこだわりでは無く上からの注文によって作品を作るようになった相方コンビは本来やりたかった事(お笑いで人を幸せにする。作中で語られる笑うと174秒寿命が延びる話)とは違うホラー番組の世界に身を投じて行く。  
そこから始まるのはプロデューサー、さらにその上からの〝レギュラー〟〝視聴率〟の言葉に踊らされ、自ら危険の中に身体を投げ込んでいくコンビの姿である。これを観ながら思い出したのは『仁義なき戦い広島死闘篇』の北大路欣也であり、上からの甘い言葉に騙され利用されボロボロになっていく姿はまさにヤクザの鉄砲玉であった。

【形骸化していく目的】
 本当はお笑い芸人になって笑いで人を幸せにしたかった主人公は、いつの間にか芸人である事が目的になってしまい、〝大人〟に騙されながらホラーの仕事に打ち込み周りを巻き込みながら命を削られていく。
 その姿を一番間近で観ていたのが恋人の梓である。印象的だったのが彼女が主人公の舞台を観るシーン。最初、主人公たちの漫才を観ていたシーンでは周囲の観客が無表情の中、梓だけが爆笑している一方、後半、主人公が怪談イベントに出演しているシーンでは怖い話に反応する観客の中で彼女だけが反応に戸惑っている。
 つまり彼女は本来の夢や理想像から、それに固執し過ぎるが故に離れて行く主人公の姿をキチンと見ている。
 奇しくも主人公がコンビを解散し、テレビ局に出入りするようになったのと時を同じくして梓もTV局のヘアメイクになる。そこにあるのはテレビ局というひとつの構造の最底辺に置かれる若者二人の恋愛と自己実現である。もちろん仕事が全く違う(被写体である仕事と被写体を整える仕事)二人ではあるが、同じ業界で働きながら自分の好きな事で仕事をしだんだんと認められていく梓と、そこで働く事によって搾取され続ける主人公の姿は対比的ですらあった(梓がヘアメイクにかける想いはもっとちゃんと描くべきだと思ったが)。
 その意味で今作は、夢を追いかけているうちにいつの間にかその目的を失い形骸化してってしまう青春の物語だったと思う。
 その葛藤は、例えば『ソラニン』におけるアイドルのバックバンドへの誘いだったと思うし、あらゆる青春映画に出てくるモチーフだったと思う。

【お笑いで勝って欲しい】
 本来の目的を忘れ形骸化してしまった芸人の物語として今作を観ていたわけだが、それと今回の原作であるモチーフである〝事故物件に住む〟というのはどうリンクしていたのだろうか?
 事故物件に住む事で、主人公はあらゆる霊に憑りつかれ、自分も周囲も巻き込んで危険に曝していく。事故物件に住むことに対し、相方が途中で逃げ出し、恋人がそれを止めようとしてもなお主人公はそこに住み続け、より危険なものを撮るためにそこに住み続ける。
 そこにあるのは、有る一線を越えたところからは狂気であると思う。
 そして今作が芸人の話、芸能界の話として誠実であるならば描き方はふたつだったと思う。
 ひとつは、主人公は幽霊の前で漫才をし彼らを笑わせる。
 今作、話が進むにつれ主人公の夢は形骸化し彼は本来の目的を忘れて行く。その忘れて行くものとは「笑いで人を幸せにすること」。それに対し彼がその目的を忘れた先にするのが事故物件に住む事であり、そこで彼を蝕むものは「不幸ゆえに死んでいった人たち」である。
 もし、今作が芸人の物語として忠実であるならば、ラスト四方八方から幽霊に取りつかれたコンビの2人は命がけでコントをやるべきだったと思う。それによって幽霊を笑わせる、かつての不幸を笑い飛ばすことで危機を乗り越え、彼が本来やりたかったこと=お笑いだったこと、人を幸せにすることを思い出し、企画から降りる。
 多分、ある意味これは実際の本編のラストに近い終わり方で、幽霊に襲われた彼らが最後に使う武器がかつてコントで使っていた傘だったのはそのためだと思う(これは音声ガイド付きで観たからよりハッキリ気づけた)。
 ただその後で、物語はなぜか主人公たちカップルを中心にした『イット・フォローズ』エンドになってしまう。つまり、この世界に散らばったあらゆる不幸の影に気づいてしまったふたりが、その中でふたりで生きて行く決意をする。このラストはビジュアルとしてラストっぽいのだが、ふたりで生きて行く決意をする事と、主人公の中での夢への決着がどう着いたのかはイマイチ分かりづらい。
 また、今作の原作者である松原タニシさん自体がまだまだ現役で事故物件に住み続けている事も、今作を彼が明確にお笑いに戻る、事故物件に住むのを辞めるというラストに持って行けなかった要因でもあるかもしれない。
 そこでもうひとつ考えたラストが『ナイトクローラー』エンドである。
 本来の夢を忘れて過激な映像を撮ることに憑りつかれていく主人公には最後まで突っ走って欲しい。
 ラストシーン、史上最強の幽霊(今まで出てきた幽霊の集合体死神)と対峙した主人公とそこにやって来た恋人と元相方。何とか幽霊の隙をついて主人公を部屋から引っ張り出したふたりだが、視聴率を求められている主人公はそれをカメラに収めるべくハンディカムを片手に止めようとする二人を振り切り部屋に戻ってしまう。大きな爆発音と共に静かになる部屋。数か月後、TVに出ている主人公。自らの体験談を語る彼の顔が一瞬死神に変わり彼が憑りつかれた事が示される。
 このふたつめのラストであれば、彼が本来の目的から外れ完全に向こう側の存在になってしまったことが描かれるし、これなら未だに事故物件に住み続ける松原タニシとも一致する。
 ただ、多分今作のターゲット層である中高生?には受け入れづらいラストかもしれない。

・ケータイに残されてた留守電が恐らく洗面器に溺れさせられている老女の声だった。しかも何か意味がある言葉を叫んでいるようなのだがイマイチそれが聴き取れない。この演出はちゃんと怖かった。
⇒怖かったし、仮に今作が中高生向けに作られてるのだとしたら結構エグめな展開だったように思う
・霊媒師役の高田順次がパッと見サニー千葉っぽかった
・江口のりこの死にざまが良い
・本人役で出てる芸人と、別の役名がある芸人として出ている芸人の差は何?
・彼女の都合良い感は若干『劇場』っぽくもあった
・関西って設定のシーンが結構東京。ルネ小平の前とか
・学校の怪談との違い。幽霊のキャラ化