KnightsofOdessa

ポゼッサーのKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

ポゼッサー(2020年製作の映画)
2.5
[クローネンバーグ版"攻殻機動隊"] 50点

『アンチヴァイラル』に続くクローネンバーグの監督二作目。いきなり自分の頭の天辺に長めの電極を刺して痛そうにしている女性が登場し、彼がデヴィッド・クローネンバーグの息子であることを思い出す。女性はコンパニオンとして出席したパーティで客を刺し殺すと、投降することなく警察に射殺される。すると、加害者を操作していた女性ターシャに物語は切り替わる。彼女は加害女性の意識に侵入して操作し、暗殺を行う産業スパイだった。そんな彼女も、日常生活に戻るには『ブレードランナー2049』や『インセプション』のテストを思わせる"平常に戻るテスト"を受け、自身の夫を訪れる際は元の自分のテンションやテンポを確認しなければならない。他人をコピーして演じることを繰り返すうちに、演じることこそが自分になっていくというのはサボー・イシュトヴァン『メフィスト』などでも語られていた。これらの作品に加え『マトリックス』『攻殻機動隊』などを思わせるアイデンティティ探求ものを目指している。

新たなターゲットとして選ばれた博士を殺しに行くため、コリンという男が暗殺者のコマとして選ばれる。ターシャが彼に侵入し、融合していくシーンは何度も繰り返し登場し、『ザ・フライ』の蝿人間をデジタル世代が蘇らせたかのように二人の身体が融合していくイメージで語られる。ただ、明らかに編集はもっさりしており、ターシャとコリンの意識がコリンの中で入れ替わり続けているというより、二重人格の人をクリストファー・アボット(コリン役の俳優)が演じているというだけの印象に留まってしまう部分にもっと演出/編集の器用さが必要だったようには思える。それを脳内で起こる静かな戦争とも読み替えることは出来るが、他人が自分の意識に介入するという重大なアイデンティティの危機にしては緩慢すぎるし、コリンが苦しむ合間に先述の気味悪く融合したイメージが挿入されるんだが、これがあまりにもストレートすぎてちょっとダサい。例えば、ターシャの顔を潰して顔の皮を被ったらターシャの記憶を追体験するシーンなんか、もうちょっと理解不能な出来事が起こって欲しかった。全体的な印象としてもグロ描写に構っていたら本筋が疎かになってしまったように感じる。もっと器用かつ大胆に編集して、突き抜けたグロさを洗練させて欲しかったが、本作品では"ただグロい"というだけで終わってしまっていて勿体ない。父親の感じを真面目に模倣しているだけに終わっている感じがする。

個人的にはニュー・カナディアン・シネマのヒロインとしてソフィア・ボーダノヴィッツ(Sofia Bohdanowicz)やカジク・ラドワンスキ(Kazik Radwanski)の作品に出演していたデラー・キャンベル(Deragh Campbell)が、アンドレア・ライズボローやジェニファー・ジェイソン・リーに並んで出演していることに嬉しくなってしまった。コリンの彼女の飲み仲間として1分だけしか出番がないけど。
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