中島何某

MOTHER マザーの中島何某のレビュー・感想・評価

MOTHER マザー(2020年製作の映画)
3.7
2020年 91本目

【はじめに】
あの清純派代表格の長澤まさみが“汚れ役”やるという事で以前から気になっていた『MOTHER マザー』であるが、観賞後脱力感と虚無感をものの見事に抱かせてくれた。
ジャンルとしては“毒親モノ”で類似作品としては『誰も知らない』が挙げられる。
今作の最大の魅力はある種の“歯痒さ”であり、この“歯痒さ”と“共感”の矛盾が作品の脱力感と虚無感を増幅する装置として機能している。

【ストーリー】
息子の周平は劇中で幾度となく救いの手を差し伸べられる。しかし毎回の事、母である秋子を選んでしまう。毎度観客として「秋子を捨ててでも、幸せになれ!」と願うのだが、母親を捨てる事が出来ない息子の気持ちは多いに理解、ないしは共感出来る。
そんな母親と同様かそれ以上に不快に感じるのは、周平の周りを取り巻く男達だ。彼らは一見子供(周平とその妹)の面倒を見ているようだが、子供達に注がれるそれは秋子との“肉体関係”によって成り立つ、いわば“偽りの情”ともいえる。感情が見えにくいとはいえ、感受性豊かな年齢の周平にとって大人の男は“汚いモノ”に見えていたのではなかろうか。劇中で夏帆演じる亜矢が「大人って楽しいよ」と周平に語りかけるのだが、周平からすればたまったもんじゃないだろ、と私は思った。
世間一般では“共依存関係”にある秋子と周平。しかしこれを間違っているという権利が社会の何処にあるのだろうか。
そんなこんなで、差し伸べられる救いの手から見事に転落していく親子は、祖父母の殺害を以て一つの終わりを迎える…。
ここからは本編を観て確かめて欲しい。古今東西星の数ほど存在する母子であるが、秋子と周平も当人達にとっては一つの完成された関係なのだと私は感じている。

【映像】
映像作品としてはBGMを多用しない邦画独特の“間”が作品に厚みを持たせていたと思う。ラストシーンは特に終了後の虚脱感を増幅させてくれた。

【総評】
ストーリー面と映像面共に重厚かつ社会問題に切り込んだダークサイド邦画である。これを読んだ方には是非映画館へ足を運んで観て貰いたい。日本映画特有の陰鬱な感じが堪らなく唆られると思う。