岡田拓朗

MOTHER マザーの岡田拓朗のレビュー・感想・評価

MOTHER マザー(2020年製作の映画)
3.5
MOTHER マザー

こんな母親でも僕にとって世界。

実際に起こった「少年による祖父母殺害事件」がモチーフとなった映画。

内容的には終始重たくて、想像を何回も超えてくる形で、人間が闇堕ちしていく様が描かれているのだが、本作にはその中に人間ドラマの要素をほとんど感じられない。

あくまで客観的な視点から事実が時系列に並べられ、人それぞれに対しての人間的描写が少ないので、感情移入することが難しく、終始母親の胸糞悪さと子どもが可哀想であるだけの映画に落ち着いてしまってるのがもったいない。
こうなることが家族であり、親子(母子)の関係であるのだと、子は親に左右され翻弄されるのだという諦念が見え隠れしていて、落とし所としてもモヤッとした。

他の人が踏み入れることができない家族や母子だけの聖域があると言われたらそれまでだが、自分は家族や親子(母子)という事実があるだけで、子が親に愛を持つことも、一人の人間がここまで歪んでしまうことを受け入れたくないだけなのかもしれない。

理解しづらい人間をただただ映して、理解できないまま、このような人もいるんだという結論に終わってしまう。
そういう意味では、感想が非常に難しい。
鑑賞する人の主観しか入る余地がないのに、その主観を入れることすら難しい題材であり、そんな人たちが描かれているから。

主人公に近い要素を感じるなら『凪待ち』、題材としては『万引き家族』や『誰も知らない』、『子宮に沈める』、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』を感じさせる題材と申し分のない設定と題材ではあるのだが、なぜか淡白で他人事のように感じてしまうし、心動かされるものや考えさせられる余白がなく、理解できないの先にあるものやその裏にある背景が描かれないままに終わってしまった印象だった。

自分は作品で描かれる人物像や題材に対して、(倫理的に)理解できるかどうかは求めていない。
むしろ生きていく中で関わることがなかった人たちが描かれる作品や倫理観が崩壊している人たちが描かれる作品は、今までの自分にはなかった視点や奥行きを与えてくれるので、こちらから選んで鑑賞するし、本作もそういう点に期待して鑑賞した。

でもそれはあくまでそこに対して向き合い切った上で織り成される物語があったり、言葉があったり、映し出される世界があり、その中に考えさせられる要素や否が応でも感情移入させられる描写があるからこそなのである。
その点が本作では感じられず、物足りなさが残った。

ただこの事実を映し出したかっただけであれば問題はないが、やっぱりこの中に秋子(長澤まさみ)と周平(奥平太兼/郡司翔)の関係による描写や人間にフォーカスを当て、深めていく描写が欲しかった感はどうしても拭えない。

愛のようには見えないが、洗脳にも見えない。
その間にありそうな微妙な親子関係が映し出される中で、周平から秋子への愛や好きがあるという、結論に持ってくるのはどうしても腑に落ちなかった。
それが真実であれば、何も反論することができないのだが、二人の間にはもっと何かがあったはずだとどうしても思ってしまう。

ここで『許された子どもたち』との明らかな作品としての質の差が出ていて、やはりこのような題材で、傑作と呼ばれる作品を作る難しさが改めてわかった。
8年の構想とワークショップや取材を重ねていったその差が如実に出ていた気がする。

ただその中でも他人が親子の聖域の中に踏み込むことが難しい社会の闇を、じっくりと描いている点に関してはよかった。
手を差し伸べようとする人(夏帆)がいるのに、それを(周平も応じ切ることができないことも相まり)最後までし切ることができない現実、それによってさらに救いがなくなっていき、共依存の関係に陥るしかなくなる秋子と周平。

二人は早く引き離された方がよかったとずっと思った。
それができなかったからこうなったのはわかるが、周平が秋子にこだわることに納得はできなかった。
逃げなかったことも、第三者が介入し切れなかったことも…あれこそが現実なんだなと打ちひしがれるしかなかった。

でもそうなってしまうことこそが、狭い世界の中で生き続けざるを得ない人たちの逃げられない闇なのかもしれない。
冒頭のキャッチコピーにもあるように、どんな母親でも、どんな組織でも、どんな関係でも、そこが自分の世界になってしまったら、倫理観が破綻していくのだろう。
そもそもの常識がその世界の中から創り出されるようになってしまうから。

共依存にするために、あえてできるだけ外の世界に触れさせないようにしていたのだとしたら本当に恐ろしい。

ここが全てであるように仕立てていく秋子が怖かった。
そして、そこに対して手を差し伸べることに限界のある社会そのものも。

P.S.
キャストの演技はとてもよかった。
特に今作で新境地を見せてくれた長澤まさみとデビュー作である奥平太兼、そして葛藤する正義の夏帆。阿部サダヲも今までとは違った感じの絵キャラで凄かった!
ただ長澤まさみはどうしても綺麗が勝っちゃいますね!
他キャストも含めてよかったし豪華だっただけに、作りの物足りなさがどうしてももったいない。
岡田拓朗

岡田拓朗