すずき

83歳のやさしいスパイのすずきのレビュー・感想・評価

83歳のやさしいスパイ(2020年製作の映画)
2.9
某老人ホームで虐待が行われているのではないか、その調査の仕事に探偵会社が雇ったのは、83歳の老人セルヒオ。
彼に老人ホームに入居させ、潜入捜査をしてもらおう、という計画だ。
セルヒオは老人ホームで、その真面目な人柄の良さから人気者になっていき…

タイトルを聞いてコメディかな、って思ったけど、ドキュメンタリーらしい。
その意外性が気になって見てみたんだけど、なんか思ってたのと違ったなぁ。

どこまでがドキュメンタリーで、どこまでが演出・演技のドラマなのか分からん…。
TV番組の「警察24時」みたいな映像を想像してたけど、カメラワークはキチンと計算されたものだった。
ドキュメンタリー、って情報を知らずに鑑賞したら、普通にドラマだと思うかも。

劇中の老人ホームの老人達は本物の入居者が演っているそうだけど、彼らの会話は台本?
流石にリアルなドキュメンタリーにしては、セリフが綺麗過ぎるから多分台本なんだけど、台本有りのドラマにしては話運びがぎこちなく地味。

序盤の探偵事務所で説明を受けるシーンで、映画の撮影の事について話したり、セルヒオの持つ隠しカメラから撮影スタッフが映ったりする所は、フィクション・ノンフィクションの垣根を超えてて面白かった。
だけど、その後は「映画の撮影をしている事」は無いもののような扱い。
「シェアハウス・ウィズ・バンパイア」もそうだったな、序盤だけドキュメンタリーという体なの。

ドキュメンタリーなら、絶対起こり得るであろう撮影スタッフへの反発や、入居者同士の派閥争いや陰口・嫌がらせの類、うんこ漏らしたり下系のトラブルとかの、人間の汚い部分がほとんど描かれないのは不自然。
汚い部分を描写すればリアル、って訳じゃないけれど、この映画で描かれる老人集団は少し理想的過ぎる気が。

役者じゃないホンモノに演技させた、ドキュメンタリーとドラマの境目という意味では「ノマドランド」を思い出した。
しかし「ノマドランド」がドキュメンタリーとドラマの良い所どりだったのに対して、こちらはあまり上手くいっていないように感じた。