てづか

無頼のてづかのレビュー・感想・評価

無頼(2020年製作の映画)
5.0
生きることと死ぬこと、それぞれの生活、それぞれが持つ人間の背景というものを「ヤクザ」という狭い社会で息苦しくもそうとしか生きられない人間たちを通して描いた映画だった。


産まれた境遇、貧困からその生き方しか出来なかったという悲哀。
それを抱えながら、愛しいものの死に泣きながら、それでも笑って生きていく人たちがいる。
笑顔の裏に色々な背景を持ちながらも、その人の生活は続いているというのがあらゆるシーンで表現されていて、泣いてしまった。

コミカルでありながらもシニカルであり、またシリアスであるのにコミカルでもある。
決して暗いだけの映画にしないところもとっても好きだと思った。どうだ、映画ってのは楽しいだろう、という思いやこうやって生きていきたい、という切実な思いがあるようにも思えて、今のコロナ禍でなかなか映画館にも行けず、映画館も理不尽な要請に苦しめられているという現実と重ね合わせてまた泣いてしまった。

トークショーで、井筒さんは言っていた。
「生きるのに寄る辺ない時ってのがあった。そういう時代だった。でもそういうときの俺にとっての寄る辺は映画だった」


井筒さんは、隅っこに追いやられて寄る辺もなく生き、かといって死ぬ事も出来ない人達が世の中にたくさんいるんだぞということをちゃんと描いてくれて、そういう人たちの寄る辺となるような映画を撮ってくれる人なんだと分かってまた泣いてしまった。

劇中の描写でも、権力者や体制への怒りはものすごく強く感じたし分かりやすいように描いてんだなって感じがした。

べつにヤクザを美化はしていないし、かといって否定もしていないところもいい。ただそこに生きている人間がいる、ということをひたすら描いていると感じた。
政治家や宗教団体からいいように扱われ、暴対法によってシノギもなくなり、ただ生きていくことすら困難になっていく姿は決してヤクザだけに当てはまるものでは無い。

そして、ラストの落とし方も最高だった。
無頼だと思って生きてきた今までよりも、暴力の世界を抜け出して新たな人生を歩み始めるこれからの方が、よっぽど無頼なんだ。

そうやって前に向かって進んでいかなきゃいけないんだと強く思わされたし、その覚悟の清々しさに心底泣いた。

こんだけ泣いた泣いた言ってるけど、それ以上に笑かされたという感じがすごくある。
もうずっと笑ってた。
糞尿のシーンとかほんと最高。(詳しくは観てください)

井筒さんの映画は音楽の使い方も好きだなと思う。挿入されるタイミングと役者の動きのリンクの仕方がすごい好き。あと、単純にセレクトする曲もいちいちセンス良いと思う。

終映後に拍手で包まれる映画館の中で、「やっぱり映画って、映画館っていいなぁ」と思ってまた泣いてしまった。
てづか

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