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情婦のtjZeroのネタバレレビュー・内容・結末

情婦(1957年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

エンド・クレジットで、
”まだご覧になって無いかたには、結末を明かさないでください”
ってお願いされちゃうくらいだから、本作のレビューはネタバレ⚠仕様にせざるを得ないでしょう。

『今日も映画日和』という本を読んでいたら、本作のクライマックスにおける、ビリー・ワイルダーの演出の凄みを再確認させてくれる記述がありました。

マレーネ・ディートリッヒ演じるクリスティーネが、裏切り者の夫レナード(タイロン・パワー)をナイフで刺し殺すシーンがあるでしょう。
あの場面で、弁護士役のチャールズ・ロートンが殺人をそそのかすような仕草をしている(⁈)というんですよ。

今回、そのシーンを確認するために再見してみました。
真相を知ったクリスティーネが愕然としている時、弁護士のロートンは単眼鏡の光を反射させて、卓上の証拠品のナイフをキラ✨キラと光らせているんですよ。
そう、まるで「そのナイフで、刺しちまいなよ」とそそのかしているように…。
アガサ・クリスティーの原作にはそんな仕草は出てこないそうです。
ワイルダーの演出の凄みをまざまざと再確認させてもらいました。

そんな仕草の後なので、ロートン弁護士が殺人犯となってしまったクリスティーネの弁護を決意するエンディングも、実に自然に感じられます。

そして、ヒロインを支える弁護士の姿に、ワイルダー自身を重ね合わせてしまいます。
クリスティーネは、ナチス支配下のドイツから逃れるために、イギリス兵だったレナードと偽装結婚して、ロンドンに身を落ち着けた…という設定。
ワイルダーも、オーストリアに生まれたユダヤ人であり、ベルリンで映画界に入りましたが、ナチスの脅威を感じてハリウッドに亡命した過去があります。
だからこそ、このヒロイン像に対する思い入れも強かったに違いありません。

さらに演じているディートリッヒも、ドイツ出身でハリウッドに渡り、ナチスから本国に戻るよう要請されましたが断固として拒否し続けた、という経歴を持っています。

なので、そんなワイルダーが演出し、ディートリッヒが演じたヒロインの存在感が強烈なのも、ある意味当然なのかもしれません。

そういう背景を知っていると、オチが分かっている2度目や3度目の鑑賞でも、味わいはさらに増すことは間違いありません。
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