実生活では経験したことの無い事態や感情を疑似体験する"装置"としての「映画」
最新の傑作として、今年は「サウンド・オブ・メタル」と本作が双璧。
高齢化社会や福祉制度の重要性。その脆弱性、危険性を語られる様になって久しい私たちの国でも、100のニュースや文章よりも、この一本の映画の方が饒舌にその逼迫性を訴えられるのではないか。
そこには単なる数字ではなく、人が、家族がいる。
頭で理解するのではなく、心で理解したい。この映画はその助けになる筈。
叙述トリックのアイデアと仕掛け自体は真新しいものではないが、テーマやキャラクターを描くことそのものにしっかり殉じている。
原作は監督の手による戯曲ということ。
映画らしい時間の連続性、美術やセットを活かした画面づくり。
ストーリーテリングへのアダプテーションは巧みだった。
もちろん実質限定空間の室内劇。
アンソニー・ホプキンスとオリビア・コールマンの演技あってこその作品クオリティ。
アンソニー・ホプキンスの文字通り喜怒哀楽は至高の域。オスカー受賞は納得。