なっちゃん

ファーザーのなっちゃんのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
3.9
よかった。好き系でした。

作中の演技レベルが高すぎて、アンソニーホプキンスとオリヴィアコールマンのスタンドがオスカー像で殴り合ってた。これアンソニーホプキンスもすごいけど娘がオリヴィアコールマンじゃなかったら成り立ってないと思う。

映画見るときって、登場する俳優を認識し、その人物と他者との会話やそれをとりまく背景情報から「この登場人物は息子がいるんだな」「金持ちなんだな」「友達が多いんだな」と輪郭を作っていく。今作は状況をひっくり返したり混ぜたりすることで観客の認知作業を困惑させる。そしてまさしくこれが認知症という病が起こす事象であるというトリック。脚本が映画表現と相性がよすぎる。

アンソニーの住むフラットは当初暖色背景だが病状の進行と共に青色になっていく。ラストシーンの病院では完全に壁紙が青かったので、これも記憶の混濁なんだろうな。

人間の記憶なんて元々信用できたものではないけど、ここまで系統立たない情報に取り囲まれていればそら患者は不安になりますね。その中で確かなもの(と思われる)時間を把握すべくアンソニーが常に腕時計を身に着けたがるというのも印象的でした。

また、「いつまで我々をイライラさせる気ですか?」と尋ねてくるのが必ずスーツを着た男性というのもつらい。
アンソニーは自分のことを理知的で社会的地位もあると言い聞かせているものの、薄々自分がおかしいのではないかと気づいているし、惨めな気持ちにもなっているからスーツを着た男性(=理知的で社会的地位のあるイメージ)から責められることに怯えている。こういったこの年代によく見られるマチズモ支配の痛ましさもリアル。そしてケア要員(娘やヘルパー)に笑われることも極端に恐れてるのよな。別に馬鹿にしてないから怒んなって。そしてなによりそんな感情の機微を繊細に表現するアンソニー・ホプキンスやっぱりすごい。

対するオリヴィアコールマンの演技ですごい…となったのは面接に来たヘルパーの前で父親に罵倒されるシーン。ついに自分でさえ簒奪者と認識されるようになってしまうシンプルな悲しさと、むしろ婚約者との旅行もキャンセルしてこんなに尽しているのにという怒りと、これまで付き合った家族としての情、初対面のヘルパーの前でありもしない侮辱を受けた悔しさなどなどの感情を全部含めての涙、、あのシーンはオリヴィアコールマンがまじで今そういう経験したんですか?ってぐらい真実味があってびびった。

色々よかったよね。
なっちゃん

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