ルイまる子

ファーザーのルイまる子のレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.6
このお父さんなに?うちのお父さん?そっくりじゃない?と世界中の高齢の父を持つ人が思ったことだろう。あまりにリアルです!それに視聴者でアラフィフ以上の人なら全員アンにシンクロする。介護中の娘、毎日介護してなくても高齢の父に対し、いつも優しく心から尽くしてるのに邪険に扱われてる人はアンに共感するだろう(私もその1人!)。それともう1つ面白いのは、認知症の恐怖を直に味わうことが出来る。本作はイギリス、フランスの合作だが、フランス映画で過去に2,3このような手法を見た事がある。視聴している私達が映画の中の視聴覚障害の人と同様の気持ちになる、又はDVの被害者の気持ちを味える。本作もそれ。目が覚めたら昨日と状況が違う、リビングのインテリアがどことなく違う、ベッドルームのカーテンやシーツがあれ?、、、毎日目が覚めると、さっきまでと何かしら違っている。知らない男がリビングにドカっと腰掛けている。この人は誰だろう?自分のフラットに図々しくも座ってるなんてどういうこと?騙されてる?ひょっとしたら全員で陥れるつもり?痴呆症の人は毎日こんな感情なのかと理解出来る。監督脚本、フローリアン・ゼレールという女性だが、フランスの室内演劇のリメイクらしい。セリフが全部実に面白い。それからドクターレクター、アンソニー・ホプキンスの神演技はブラボー!

【若干ネタバレ】アンソニー(役名も同じ)自身についての全ての情報が希薄で仕事もエンジニアだったらしい(タップダンサーと言ってた時もあり笑)、奥さんについては全くない(死別か離婚か?写真もなかった)、戦争体験、ロンドンも空襲など受けた筈、まぁ幼かったとしても、だが一切なかった。情報が分散しないように、できるだけアンソニーと周りの数人の登場人物だけの関係性に狭めたんだろう。アンソニーのセリフで「あいつらは全く英語が喋れないんだ!」とフランス人を揶揄する英国人の傲慢さ一杯のセリフが3回も出てくるがフランス人のギャグなんだね笑

1番アンソニーが怖がっていたのは、ジェームズ。最初にリビングにどかっと座っていたが、なんとなく彼に対しては恐怖心がありビクビクしていた。あの人は最終的には病院の先生だったけど、彼に頬を3回叩かれた。(確かそう、叩かれた次の瞬間ポールになっていたと思う)。2人目の男、アンの夫ポールはワインをグビグビ飲んでいた。あの気持ちわかるなー笑 親と話をする時、飲まないとやってられないから私もいつもあんな感じでグビグビ飲みながら話す笑 これも3回ほど同じセリフがあったが、あとどれくらいアンや僕たちをイライラさせるんだ?というセリフもキツかったが、正直だし、ちょっとユーモラスにさえ感じてしまったのは私だけか?介護士のキュートなローラを気に入り、2番目の娘ルーシーによく似ていると言ってた。しかしこの介護士にもズケズケ言ってたが、まだ可愛いイチャイチャレベルのズケズケ口調で、同じ毒舌でもこれらの温度差が対象に対する「好き」「嫌い」なんだろうな。最後の看護師はしっかりして冷たい感じがしたが、あまり好きじゃなかったらしい(彼女は3役、アン?役と介護士役と最後に看護師役笑)「やっぱりあんたは看護師だったのかー」というセリフも笑えた。色々姿を変えたが、彼女は看護師が一番ふさわしいとアンソニーも思ったんだろう笑 オリビア・コールマンは本当に素晴らしい!全編、アンソニー・ホプキンス劇場だったが、彼女も相当の演技力だ。とことん父に尽くしていたしいつも優しかった。なのに、この父はズケズケと「お前はあまり勉強できなかったな」とか、「大切な人ができた」と彼女が言ったら」「男か?」と最初に聞き返す失礼さ。「ほんとか?お前のような女にか?」と更にかぶせる。しかしアンはニコニコしてるだけ。2人の娘が居たが「このアンとは気が合わないが」「二番目のルーシーは一番好きな娘で、良くできて可愛くて」とか人前で平気で妹と比べる。ぶん殴ろうかというほどの憎まれ口笑 

認知症の人でなくても老いたら、人を好きか嫌いか。ただそれだけが残るんだな。義母が若干ボケているが、他の誰よりも私は彼女から好かれている。訪ねると、息子達より一番先に私のところに来てニコニコ抱きついてくれるし私もお義母さんが好きだ。社会的な生物として役割を演じている間は、人間は関係性で付き合うけど、最後に残るのは好きか嫌いかだけなんだな。

アンソニー・ホプキンスの遺作になるだろうと視聴したが、アカデミー賞やらの高評価で気を良くし、ホプキンスもまだあと2,3作は撮りそうだ。

*追記: レビュー書いた翌日、他のレビューを読んでびっくり!皆さん悲しんだり可哀想だと思ったり、歳を取りたくない等のご意見が多かった(*_*)私はリアルをコメディに描いた名作と捉えた。自然な脳の衰えに戸惑いながらも、元々毒舌だったアンソニーがより一層毒舌になりまだまだ死ねない命を生きていく物語です。娘には同情しても、お父さんには笑って視聴するのが正解。誰でもこうなる可能性はあるし、受け入れるしかないなら、いかにシリアスにならないかが大事かなと(*_*)
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