またたび

ファーザーのまたたびのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.2
大好きなアンソニー・ホプキンスが主演のうえアカデミー主演男優賞を取ったということで、コロナの影響で最近の映画館のむちゃくちゃな上映スケジュールの中、かなり無理して鑑賞。

アンソニー・ホプキンスというと、羊たちの沈黙のレクター博士を思い出す人が多いだろうが、私は何と言っても30年近く前に映画館で観た「日の名残り」の執事役。この映画をきっかけに原作者のカズオイシグロを好きになり、「わたしを離さないで」(ドラマじゃないイギリス映画です)も観た。この映画でイギリス人と日本人の感性はとても近いと感じた。階級社会のイギリスと同じように階級制度があった日本人の主人に仕える者の心情や感情を押し殺して職務に忠実で自分の主張を人に表明することなど考えもしない。この執事役をアンソニー・ホプキンスが繊細に演じている。彼が話すクイーンズイングリッシュの響きも心地良い。相手役にこれまた私が好きなエマ・トンプソン。名作である。観ていない方はぜひ、観て欲しい。これぞイギリス映画という作品。

さて、ファーザーは、妻に先立たれ一人残された老人が認知症になり、近くに住む娘やヘルパーに世話をしてもらいながら自宅で一人で生活していたが、それも限界になり、いよいよ施設への入所を考えなければならない段階の話。
私も2年前に父を亡くし、実家で母が一人暮らしをしていて週末に帰り世話をしているので娘の苦労はよく分かる。明日は我が身。

【ここからネタバレ注意!】

しかし、この作品は、最初はわからないが途中から認知症の父親の目線で出来事や娘らとの会話が描かれていて、これが幻覚なのか現実なのか何が客観的な事実なのかわからないまま話は進み、最後の最後でようやく状況が判明する。
認知症の人は最初から何もわからないわけではなく、まだらぼけという言葉があるように、ちゃんと認知できるときとできないときがあり、徐々に進行していく。
これまで精神病に罹患している人の目線で描く作品はあったと思うが(ディカプリオのシャッターアイランド)、認知症の老人の目線というのは新鮮だった。
認知症の親と世話をする家族を描く作品は日本でも多い。しかしながら、ここまで徹底して認知症患者の目線で描きながら、きちんとその娘の苦悩も感じられ、認知症患者だって、ただ訳が分からなくなって暴れたり、怒鳴ったりしているわけではないんだとその行為にはちゃんとした感情があることを教えてくれる。

高齢化社会と介護の問題は世界共通のテーマだということがわかった。
私にとっては、まずは母の介護問題が直近の課題だが、自分自身の身の振り方も考えておかねばと思わされた。