しちれゆ

ファーザーのしちれゆのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
3.9
スクリーンで見る認知症と、自分がリアルに関わりそこから逃げられない立場になる近しい人間の認知症とでは、許容範囲が違う。私たちはアンソニーに同情し味方になり、お茶目な言動に好感を持つけれど、人間の脳が壊れていくということは本当はとてつもなく恐ろしく、周囲の人々を疲弊させていく。本作のアンソニーはまだまだ人としての尊厳を保っている(排泄系が混乱していない限り最低限の尊厳は保てる)。家の中でもきちんとした衣服を身につけ昔の人らしく腕時計はマストアイテム。美しい住居とおそらくは立派な経歴、自分を愛してくれる娘。けれど最後の老人ホームでの場面で、それらは全てホームに居るアンソニーの回想の断片だったのでは、と思わせる。この時系列の組み立てが本当に見事。

「ママを呼んで。ママ、うちに帰りたい」
「全ての葉を失っていくようだ」
混沌と理性と。
そのときホームの窓からは風にそよぐみずみずしい緑の葉が見えている。
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