むぅ

ファーザーのむぅのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.5
"確か"だったものが、"不確か"なものへなっていく恐怖。

毎日、何気なくしている事が自分を支える一つになっているのだと改めて気付く。
朝、歯を磨きながら好きな音楽を聞く。電車の中でFilmarksのレビューを読みながら、次はどんな映画を観ようか考える。友達とLINEをする。永遠にオチない母の話を聞く。その日の出来事を思い出したり、楽しい空想をしながら眠りにつく。
記憶だけではなく、日常がこぼれ落ちてしまう事の恐怖。
蛇口からポトポト落ちる水滴を見て、こんな風に私の何かが落ちていったら、どれくらいでそれは尽きてしまうのだろうかと思った。

老いによる思い出の喪失と、揺れる親子の絆を描くかつてない映像体験

最近、ミステリー、サスペンスばかり観ていた。
なので、度々登場するいくつかの"アイテム"を元に時間軸やシチュエーションを判断しようとする自分がいた。でも、観終わって、そんな事ではないのだと気付く。説明出来るような事ではないのだ。
身近に認知症の方がいないまま、ここまで来たので、一括りに"認知症"としか意識したことがなかったけれど、その人の数だけ症状があるのだな、と当たり前のことを今更思った。

『いろとりどりの親子』というドキュメンタリーを観た。様々な事情を抱える親子を描く中で「愛と受容は違う」という言葉が出た。
ハッとしてしまった。
自分の中で、なんとなくそこは"同じ"とまではいかなくても"繋がっているもの"だった。
そんなタイミングだったので、父の"受け入れられない"を"受け入れよう"とする娘、2人の親子の姿がずっと心に残っている。

友人にお勧めしたら観てくれた。
「食らった」という、その言葉が私にもピタリとはまった。
むぅ

むぅ