認知症と家族というファミリードラマめいたテーマなのに、一貫して認知症の人の視点から物語が進む。状況が理解できない不条理映画のような斬新な演出ながら、家族というテーマが一才ブレない。傑作だった。
娘の顔が日によって変わったり、朝だったはずが急に夜になったり、同じ会話が繰り返されたりする。本当のところ、娘は結婚しているのか、パリに行くのか残るのか、この家は誰のものなのか、確たる事実は終盤に進んでもなんとなくしか分からない。
被介護者に冷たく当たられる家族はもちろん辛いが、本人だって辛いのだ。それが端的に理解できる良い映画だった。
前に聞いたことがあるけど、本人が変なこと言い出したらそれを否定せず、嘘でもいいから話を合わせてあげるのが良いという。たしかにその方がいいのではと思うシーンが多かった。
何より怖いのが、この不条理が世界中の当事者にとっては日常だということ、そして自分や自分の家族もいつかその当事者になりえるということだ。ありきたりな家族の絆うんぬんの映画より、こういうののほうが刺さるな。アンソニーホプキンスの怪演ぶりに震える。