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ファーザーのhikarouchのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.1
これぞ映画。これぞ役者。
事前に入ってくる情報が地味過ぎて後回しになっていたけれど、なかなかどうして立派な作品だった。

リアリティとは少し違う、でも本当に自分がこの映画の世界に入り込んだような、アンソニー・ホプキンス演じる父を疑似体験するような、吸い込まれるような感覚。

過去と未来、虚と実が入り混じり、複雑に絡み合った状態から、最後には映画的な仕掛けとともに解きほぐされるのかと勝手に期待していたが。

この映画の題材を考えれば、解きほぐされるはずもなく。ただこの認知症という病気の恐ろしさを骨の髄まで叩き込まれて物語が終わった。それが、全く説教くさくもなく、極めて映画的なやり方で描かれることが凄まじい。

認知症を扱う映画ではとかく、周りの人間の苦労にフォーカスが当たりがちだが、(本作でもたしかに娘のアンの苦労と苦悩が描かれてもいるのだが、)病気にかかっている当人がどう考えても一番つらいんだということを改めて思い知らされた。
「おじいちゃんは分かんなくなっちゃって、気楽で良いわね」なんていうひどいセリフはこの映画には出てこないが、でもそういう言葉をどこかで何度も聞いたことがある。
でもそうじゃない。痛い苦しいも辛いけれど、分からないってのが一番辛いんじゃないの。娘の顔が分からない。自分のことが分からない。朝か夜か分からない。特に、時間軸がめちゃくちゃになることの恐ろしさを感じた。脳が壊れていくというのは、なんて悲しいことなのか。

アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、この二人の演技がエグい。これまでの作品では見たことのないような顔を見せていたホプキンスは、齢82にしてキャリアベストを更新してそう。

年齢を調べていて知ったんだが、アンソニー・ホプキンスは明日12月31日が誕生日だそうで。84歳、おめでとうございます。今後の作品も楽しみにしてます。
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