シネラー

ファーザーのシネラーのレビュー・感想・評価

ファーザー(2020年製作の映画)
4.5
アカデミー賞で2部門を受賞し、
アンソニー・ホプキンスが認知症の父親
を演じた本作を初鑑賞。
物語が進むにつれて
寂しさや虚しさが増していき、
最後には涙ぐましくなる傑作だった。

認知症を患う父親アンソニーと娘アンの生活を
アンソニーの視点から描く内容となっており、
認知症の擬似体験映画とも言える映画だ。
記憶や体験の混濁を表現するように
正当でない時系列で物語が進行する為、
ある種のサスペンスのようにも捉えられる
描き方がされていているのは、
認知症を表す上でも映画としても
上手い描写だと思った。
細かな室内の描写や会話劇の流れから
結末までを考察するのが、
2回目以降の鑑賞の醍醐味と言えるだろう。

本作のパッケージや予告編を見ると
父と娘の感動話のような
イメージを受ける人が多いと思うが、
実際にはそんな生優しいものはなく、
どこまでも現実的に感じられる内容だった。
プライド高い高齢男性が
そのプライドを打ち崩された挙げ句に
退行していく様子は、
何とも悲しい現実だと思った。
本作で再び主演男優賞を受賞した
アンソニー・ホプキンスだが、
その結末での演技は本当に
心的に痛々しく感じられ、
介護において一番苦しんでいるのは
介助者ではなく本人である事を
痛感させるのに充分だった。
娘であるアンも献身的に父親を
家庭で介護しようとしていく中で、
娘と認識されない事に
打ちひしがれているのも
決して珍しくない現実であり、
その行き着く先が介護疲れによる
両者の共倒れだと思った。
だからこそ物語の結末に関して
残酷と言うのは、
とても失礼と個人的に思う部分だった。
そのアンソニーの手を握って
寄り添う介護士の場面がとても良く、
そこでのアンソニーの言葉も
認知症患う人の悲痛な叫びとして
印象的だった。

これでも映画内の家庭環境は
恵まれているとも言えてしまうのだが、
こういう内容の映画を何故に
高齢化社会が進む日本で描かないのか
疑問に思う位に、
綺麗事で済まさない現実的な
介護を描いている作品だと思った。
全てを忘れたとしても、
新たな生き甲斐を見出だせるような
支えをしなくてはならないと
改めて感じる映画だった。
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