アキラナウェイ

フランクおじさんのアキラナウェイのレビュー・感想・評価

フランクおじさん(2020年製作の映画)
3.9
70年代の生きづらさがチクチクと胸を刺す。

1973年。18歳のベス(ソフィア・リリス)はサウスカロライナ州の故郷を離れ、叔父フランク(ポール・ベタニー)が教鞭を執るニューヨークの大学に入学する。アポなしで叔父のアパートを訪ねたベスは、彼が同性愛者で10年来の恋人ウォーリーと同棲している事実を知る—— 。

序盤に祖父、祖母、両親、叔母…大家族であるベスの家族が映し出される中で、フランクのみが特異な存在として異彩を放つ。閉鎖的かつ排他的な家族の中で、フランクだけは知的で寛容的で、ベスの良き理解者として描かれる。

ポール・ベタニーはインテリジェントな役がハマっているし、「IT/イット 」シリーズで素晴らしい演技を見せたソフィア・リリスが、本作でもしっかりと存在感を示している。

フランクのパートナーであるウォーリーが底抜けに明るくて良い。父の葬儀に出るに辺り、車でニューヨークからサウスカロライナまで走らせる3人のロードムービーとしての楽しさがまた格別。

キリスト教やイスラム教の厳格な教えの中で、同性愛は罪とされ、フランクもウォーリーも家族達には真実を告げられないまま、クローズドの状態で10年過ごしてきたという。アラブ系のウォーリーは、カミングアウトすれば殺される。例外を認めない、この宗教観のお陰で、どれだけ多くの人が苦しんでいるのだろう。

以下ネタバレを含みます。












まさか亡き父の遺言で、自分の性嗜好を家族にカムアウトされるとは。こんな酷い仕打ちがあろうか。悲痛に顔を歪ませるポール・ベタニーの姿が強烈に印象に残っている。

自らが同性愛者である事が明るみになり、自暴自棄になるフランク。そして家族の反応は—— ?

「二言だけ言わせてくれ」
「No」
「Problem」

兄貴が何であろうと問題ないと言ってのけた弟の対応に痺れた。

しかし同時に、ベスの叔母はフランクに対して「地獄に堕ちる」と明確な呪いの言葉を吐いた。それは信仰深い人間の言葉だったとしても、決して愛情深い人間が発する言葉ではないでしょうよ。そういう人間こそ、地獄に堕ちるのではないのでしょうか?

70年代、中年の同性愛者。
表立って描かれる事がなかったテーマに真正面から切り込めたのは、監督自らも同性愛者だったからなのだろう。