NAOKI

プロジェクトVのNAOKIのレビュー・感想・評価

プロジェクトV(2020年製作の映画)
3.6
ジャッキーは相変わらず若くいつものジャッキー映画なんだけれどもって話…(泣)

おれは中国へ返還される前のイギリス植民地時代の香港に8年ほど暮らしていました。
たくさんの香港人の友達もできたのですが彼らは自分たちのことを民族的には「中国人」と言ってたけど国籍は必ず「香港人」と名乗っていました。

皮肉なことに植民地にされてイギリスに押し付けられた「資本主義」や「民主主義」を逆に謳歌し、やがて来る中国返還を「旅の終り」だと悲観的に語っていたのです。

ジャッキー・チェンや故ブルース・リーは紛れもなく「香港人」で香港人とおれが友達になるのに格好の材料となるヒーロー達だったのです。
香港での彼らの伝説を山ほど聞かせてもいました。

返還後も香港人たちは自治権をなんとか守ろうと闘いましたが弾圧によって黙らされたのは皆さんご存知の通り…

そして先日ジャッキーのある発言がおれたちを驚かせました。

「私も共産党員になりたい」

あーあ、ジャッキーは香港の民主化に立ち上がるどころか中国に寝返って習近平に尻尾を振ってやがる!

その後独裁者習近平は中国の芸能界に圧力をかけ始めます。脱税の疑いのある芸能人の摘発に乗り出し、中国及び共産党に敬意を持って品行方正な私生活と作品作りを「強制」し始めたのです!

世界的な影響力のあるジャッキーに習近平がどんな圧力をかけたか容易に想像できるってもんです。

ジャッキーは香港が中国に返還されるときは日本に亡命でもするかな?なんて冗談みたいに言ってた男です。共産党になんか入りたいわけないのだ!

彼がやりたいことは一つ…死ぬまで映画を作り続けたいだけなんだろう(泣)

そのためのあの発言なのか?

そのおかげかどうかわかりませんがビッグバジェットの中国映画としてこの「プロジェクトV」が出来上がってきたではありませんか!

中国の民間警備会社「ヴァンガード」が要人や人質を救うために世界中を飛び回り最後はテロリストの報復から米軍を救うことになるというクソみたいなストーリーだけど…

このヴァンガードのリーダーを演じるジャッキーは七三に分けた頭に眼鏡をかけてスーツ姿…
中国資本と自分流の映画作りの狭間で葛藤しているのか…それが顔に出てしまっていて目に生気がない(歳のせいばかりじゃないだろう)

しかしアクションシーンは過去のジャッキーの名作の集大成と言わんばかりの素晴らしさ…

しかしジャッキーらしいコミカルなアクションシーンを見せられてもなんか白々しく感じてしまっておれはなんだが悲しくなってきました。
以前はジャッキーのエンタテイメントだと思っていたものが中国の外貨稼ぎの道具に見えてくるのです。
「香港人に嫌われ中国に揉み手をしながら…そこまでして映画を撮り続けなきゃいけないのか?」

ところがこの映画…ジャッキーは一歩後ろに下がって凄まじいアクションを演じるのは若手…
そうです…最近のジャッキー映画に登場するイケメン美女達「ジャッキーチルドレン」の面々…

そして映画内でジャッキーは絶対に部下を見捨てないリーダーを演じ死にかけた部下に涙を流すシーンさえあるのです。

「そうか…ジャッキーが共産党に尻尾を振ってまで映画を撮り続けたいのは自分のためではなくこの自分が育てた若手たちのためなのか?」

このことは映画の終わり…エンドロールの時に流れるNGや制作現場のシーンで確信に変わりました。

そこには本編以上に生き生きとしたジャッキーと仲間たちの姿…大変そうだがなにより楽しそうに皆一生懸命に映画作りに取り組んでる…

こんなに素直に楽しめないジャッキー映画は初めてだったけど…あの発言の時流石に「もうジャッキーも終わりだな」と失望したおれの気持ちはいつの間にか消え去ってた。

習近平にゴマすって世界中のファンからバッシングされることは最初からわかってたんだな…それでもジャッキーはあの子達に自分の映画作りのノウハウの全てを伝え、自分は死ぬまで映画を作り続けるつもりでのあの発言だったんだな(泣)

この中国万歳映画を観て感じたことはこういうことだったのです。

ラスト大円団の中、ドバイの高層ビルにマッピングされるチャイナイメージは気味が悪くて辟易したが…

ジャッキー…ずっと応援してるぜ…(泣)
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