幽斎

グリーンランドー地球最後の2日間ーの幽斎のレビュー・感想・評価

4.0
「ディザスター映画」皆さん好きですよね。馬鹿にしてる訳では有りませんが、毎年の様に地球が凍り付く。死語で言うパニック映画「タワーリング・インフェルノ」「ポセイドン・アドベンチャー」名作も有る。私は子供の頃に「何で日本だけが綺麗に沈没するのか?」不思議でしょうが無かった(笑)。和風のイオン京都桂川で鑑賞。

隕石と言えば「アルマゲドン」「ディープインパクト」。似通った作品が乱造されるかと言えば、それは「人は善と悪が常に交錯する」生き物だから。災難で善と悪が可視化され、最善と最悪が露呈しますが、其処には完全な善も完全な悪も無い。絶望の中でも人は希望を見出したい。ストレスフルな社会に一服の清涼剤を求める事は決して間違いでは無い。

本作はMatthew McConaughey、Naomi Watts、ケン・ワタナベ(笑)。豪華スターで青木ヶ原の樹海をテーマにした異色スリラー「追憶の森」大コケして、ハリウッドから出禁を喰らったChris Sparlingの脚本。レビュー済「ジョン・ウィック」シリーズで大儲けしたThunder Road Filmsが「エリジウム」Neill Blomkamp監督を招いてディザスターを製作。監督は「エイリアン5」企画倒れに終わると、自らスタジオを立ち上げ、本作は記念すべき第1作に為る筈だった。

Blomkamp監督の本格ディザスターと聞いて、我らがキャプテンChris Evansが主演に決まる。が、Blomkamp監督がSparlingの脚本に納得せず、キャプテンも降板してしまう。スタジオは大幅なギャラUPを条件にGerard Butlerに出演を依頼。彼は本作に前後して「ジオストーム」レビュー済「ハンターキラー 潜航せよ」似たテイストの渦中に居た。Butlerは自ら脚本を手直し、監督はレビュー済「エンド・オブ・ステイツ」Ric Roman Waughに任せる事を条件に出演。製作にも加わり無事に完成。

Butlerが手直ししたのは明確なプロットの変更。具体的には「人々の在りのままの感情」善と悪が交錯する事を強調したディザスターの基本と、自然災害に伴う人間の厭らしさを重いテーマとして映し出す。本作は私の好きな「2012」手掛けたPXOMONDOが参加してるが、災害の描写こそ有るが、皆さんが期待するスペクタキュラーな破壊のカタルシスは意図的に描いて無い。

脚本を見たButlerは、人が描けて無いからボツにした。彼は「エンド・オブ」シリーズの無敵ヒーローが似合うが、当の本人はあまり気乗りして無い。本作はディザスターの定番である政治家や科学者は、ハッキリと登場しない。彼は回避する術も無い一般市民の目線を大切に、危機を打開するサジェスチョンも提示しない。ヒーローのアウトラインを踏襲しない点が、生真面目な彼の性格も投影してる。

私見ですがディザスター映画をアメリカで創り難く為ったのは、自らの立ち位置に有る。アメリカが唯一無二の超大国の時代は終わった、経済でも軍事でも中国の台頭が著しく、自分が強かった頃は自虐出来ても、今では腹の底から笑えない。その意味で「2012」は先見の明が在った。これからはディザスターではなく「Apocalypse」新約聖書ヨハネの黙示録、つまり預言としての終末を描く事が、ハリウッドの生きる道。Butlerはハリウッドでも一二を争う読書家として有名だが、彼のリフレクションズは見事に活かされた。

Butlerの設定は典型的な中流階級、不倫が元で妻とは別居。もう何度見たか思い出せないテンプレだが、終末期恒例の略奪の描き方が本作は一味違う。暴動が略奪に発展しても意外と混乱しない。暴力も少ないし楽しそうでも怒ってる訳でも無い。淡々とした無表情の略奪。誰もが目を伏せ、時には譲り合うアイコンタクトも。世情の空気感で略奪するも、パーリーピーポーとは違う「悪い事をしてる」意識は有る。矛盾した心理を秀逸に描く、パノラミックに終末を語るリアリティの凄さ。これはハリウッドにしか出来ない。

友人は「これって「ゾンビ」と同じだな」と。ホラー映画の金字塔と本作を同列に語るが、これは言い得て妙。最近では英米以外の国でもディザスター映画が作られるが、それは偽善を前提に作られた仮初の終末論。ハリウッドの場合はVFXを駆使して、観客に造り物である事を忘れさせる。有る意味で現実逃避だが、本作はカタルシスを排除してリアリティに徹する。でもある意味怖い、緊張感が持続する演出力も有るが、私の専門のスリラーで言えば、細かいディティールの積み重ねが「ゾンビ」と同じ終末論と一致する。

COVID前に完成したが、その影響で北米での劇場公開を断念。偶然だが本作にリアリティを感じるのは国民全てがCOVIDを体験したから。地球規模の危機と同じ様な体験を現在進行形で日々暮らしてる。未来に対する不確定要素は、確実に人の人生すら狂わせる。問題なのは「誰も答えを知らない」事です。COVIDも正体は突き止めても具体的な対策は出来てない。ワクチンを打つのが正解なのか、副反応を恐れて様子を見る方が良いのか。私は職業上答えは決まってますが「可能性でしかない」と言われれば頷くしかない。

「彗星が何処に堕ちるのか」と「COVIDはいつ収束するのか」全くのイーヴン。他国に巨大な地下シェルターを運営する政府と、先進医療を誇らしげに語る医学界、どちらも信用できないと為れば、私達は曖昧な情報の中から「最善手」を予測して選ぶしかない。秀逸なのは家族の目線にターゲットを絞り、ディザスター映画でよくある「世界はこう為ってる」姿を映さない。メロドラマ、お涙頂戴の安い演出を排除した事で、人の限界も躊躇なく描く。困難な時こそ尊厳を失わず他人を思い遣る、それが綺麗事と言われても。

私の一番好きなパニック映画「カサンドラ・クロス」。誰が予測出来たのか?。
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