Yukenz

チィファの手紙のYukenzのレビュー・感想・評価

チィファの手紙(2018年製作の映画)
3.9
岩井俊二が原作の「ラストレター」が日本版の映画より先に中国版が作られていたなんて知らなかった。
日本版は未見ながら、本作がアマプラ見放題の配信終了間近という事で鑑賞。
両作とも岩井俊二が監督されているので、後で見比べてみたい。

まず導入部で引っかかってしまったのだが、チィファが同窓会でしたスピーチは本人は無邪気だったのかも知れないけど、普通にダメでしょ。イン・チャンは特別な存在だったから問題なかったとしても、その後誤解しっぱなしになった同窓生もいただろうし、これって結構罪深いと思う。
まぁ、現実社会では兄弟や姉妹の同窓会にわざわざ出掛けようなんてこと自体がそもそもないだろうし、それを言ってしまったら話が進まないのでここでは流しておこう。


さて、本作では青春時代の懐古と現在の話とがクロスオーバーする訳だけど、切り替えが分かりやすくて混乱せずに見られたのは良かった。

初恋の相手への想いは特別なものでいつまでも甘酸っぱく記憶に残って決して色褪せない…そんなノスタルジックな世界観がよく描かれていて、あぁこの感じ分かるわぁとなりスーと共感できた。

文通を通じて浮かび上がるチィファのイン・チャンへの想いと、かつて彼女の姉に思いを寄せていたイン・チャンの一途な姿勢がそれぞれ沁み入る。

一方現在に戻ると、チィファの疑惑に嫉妬してスマホを壊してしまった旦那さんが翌日お詫びとして用意したものが可愛らしいし、その後に見せる優しさから彼女への愛情が感じられて微笑ましい。

加えて母親のかつての恋愛に立ち入ろうとする娘や、義母の想いの手助けを買う嫁、父も行方知れずで母も亡くして孤独感を抑えきれなくなった息子、愛した人を死に追いやったと思われる謎の男との対峙などのサイドストーリーが織り混ざって作品が展開される。

かつての様々な輝かしい想い出とその後の苦い思い、現在のやるせなさと戸惑い、そして未来への無限の可能性と希望とがギュッと詰まっていて胸が熱くなる。いい作品だった。

中国は日本に比べて親族の繋がりがより濃い印象があるので全体的に違和感はなかったが、このあたりが日本版ではどうなっているのか気になるところ。
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