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恋するけだもののおむぼのレビュー・感想・評価

恋するけだもの(2020年製作の映画)
3.9
『恋のクレイジーロード』の拡大版である。
前作同様いかがわしくて笑えるカルト映画であるし、構成には静と動の抑揚がついたため、主人公のけだものは中々目覚めずにより鬱屈した状況が描かれて、アクションが激しく格好良くなっている。
そして、江野の暴走する乙女心も大胆かつ繊細に描かれている。
あと、日本のどこか田舎が『悪魔のいけにえ』のテキサスみたいな茶色くて乾燥した雰囲気になっているのもおもしろい。

殺害することを「片す」と呼び続けることにブラック企業でよくある変な社内文化を感じて嫌になる建設会社の輩たちの正体は今にして思うと、最初のカットで女性社員が動物の死体に放尿して唾を吐くというフェティッシュかつ生命の冒涜だった時点で伏線だったのだと思った。
彼らはレザーフェイスの兄弟にも見えるし、タイムボカンの小悪党みたいにチャーミングに見えるシーンもある。
スナックの外でけだものが目覚めた時、棒立ちのまま同じタイミングで同じ方を向いて同じポーズで銃を構えるのとかそんなふうだった。

いじめと逃避行の提案の後のオープニングクレジットで、歪んだギターと叫び声の縦ノリの音楽が流れ、フェードインした江野が向こうの道から不敵な表情で歩いてきて最後に立ち止まって薄ら笑みを浮かべる様子を望遠レンズで震えながら捉えた画の、あいつがやってくるといった感じがとても好き。

最初に江野がひとり殺すシーンでは逃げ出した男を追う足がめちゃくちゃ速いのがすごく怖かった。
動きの速い生き物は本能的に怖いと思う。
例えばゴキブリとか。

主人公が過去の罪を自白するシーンだけ、どうも緊張感が続かなかった。

そして、スナックの店主のおやじの役者が若い頃のビートたけし氏にものすごく似ている…

スピーディなアクションの最終決戦の後、最後のシーンは打って変わって明るくてくだらなくて良い。
なんだかんだ気の合う者同士で仲良くやっていくというアウトサイダーにとっての救済、ハッピーエンドだった。
そこが『悪魔のいけにえ』から最も捻ったことだと思う。
江野、最高のヒロインだと思った。

あとは劇伴も良かった。
輩がスナックに入店する時のギターのフィードバックで表される緊張感、スナックでけだものが目覚めた時の特撮ものっぽさ、最終決戦の対位法が印象に残っている。
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