幽斎

バッド・ヘアーの幽斎のレビュー・感想・評価

バッド・ヘアー(2020年製作の映画)
3.8
日本の怪談話で最も有名な「四谷怪談」お岩さん。全くの創作では無く実話を取り入れ現代にも通じる。東海道四谷怪談は歌舞伎だが、歌舞伎役者と言えば不倫は今も絶えず(羨ま"笑"、四谷には於岩稲荷田宮神社、通称お岩稲荷が有り公演前に浮気封じのお参りする本物のブラック・ジョーク。未体験ゾーンの映画たち2021、京阪の緊急事態宣言が解除され(鑑賞当時)久し振りにシネリーブル梅田にて鑑賞。

お岩さんの様に日本人は古来より「髪」に独特のセンテンスを持つ。ロサンゼルスに居た時も日系の長い黒髪はアメリカ人に大人気、失礼だが顔はアレでも髪を長くするとモテる。「ラストサムライ」小雪がハリウッドのオーディションに受かったのも、以下省略"笑"。日本のホラーアイコン貞子や伽耶子も長い髪の持ち主。本作がJホラーにインスパイアされたのは間違いないが、それは「呪怨」ではなく「THE GRUDGE」だろう。「ザ・グラッジ 死霊の棲む屋敷」同じ年に作られたのも何かの縁を感じる。

本作はJustin Simien監督が脚本も書き資金も集めて製作したインディーズ作品。売れなかったら即刻ハリウッド退場だが、自信満々の監督は過去の実績でサンダンス映画祭のプレミア枠を獲得、試写を見たHuluが北米を含む世界「配信」権を獲得し800万$の値を付けた。確かにNetflixやHuluには丁度良いホラー加減と言える。配信の悩みはネットの年齢確認は詐称だらけで、強度のグロホラーは作れない。スリラー系の作品が多い理由もソレで「R」指定のホラーには個人名義のクレジットカードが必要。話を戻すと、武漢ウイルスで大都市の劇場クローズが続く中、中堅の配給会社ネオンが全米「配給」権を獲得、ドライブインシアターへ供給した事でも話題に。

Simien監督は長編デビュー作「Dear White People」サンダンス映画祭でブレイクスルー賞を獲得してNetflixが買い取る。この作品も4人の黒人学生を描いた社会風刺がテーマで「髪」に纏わるエピソードも有る。Netflixは映画をドラマ化して40話に渡って配信。日本でも「親愛なる白人様」のタイトルで配信。監督の特長はコメディの上に「何か」を載せる事でテーマを描く。本作のメニューは「ホラー」。最新作はTVシリーズ「Star Wars Lando」。

「親愛なる白人様」ロングセラーに成った理由は黒人が白人社会に置ける立ち位置をコメディで描く事で多くの黒人の支持を集めたから。ドラマが配信されてから、黒人の俳優やミュージシャン、著名人からアドバイスを貰い親交を深めたのが、本作に繋がる。問題なのは黒人が置かれたスタンスを日本人が理解するのは、まず無理だと断言したい。本作の設定は1989年だが「何でだろう?」と首を傾げた時点で理解するのは難しい。私も本当に理解してるのか自信はない。

80年代最もエンタメ界で活躍したと言えばMichael Jackson誰も異論は無いだろう。史上最も売れたアルバム「スリラー」を作ったのは世界最高のコンポーザーQuincy Jones。彼の功績は長年マイナー扱いだったブラック・ミュージックを「白人層に売れる黒人音楽」に作り変える事で、大手レーベルが見向きもしなかったジャンルを商売に成ると「愛のコリーダ」自ら歌って、Lionel Richieを始めとするミュージシャンを輩出した。もちろん、タイトルは日本映画をインスパイアしてる、見た事無いけど"笑"。
https://www.youtube.com/watch?v=73IU6Z-4zdU

その中でQuincyが最も才能を高く評価したのがMichael。彼の音楽はブラック・ミュージックを白人層が支配して、商品として消費する。ソニーがハードでCDを開発し、ソフトでアメリカCBSを買収して、Michaelに新たな音楽のアイコンを求めたが「白人層に売れる黒人音楽」に嫌気が差してソニーのプロデュースを拒否し訴訟に発展。自ら手掛けた「インヴィンシブル」を最後に彼の凋落は始まった。彼の死は黒人音楽の「個性」と「利益」と言う分断を生み独自性も失われた。

独自性は「髪」にも言える。日系の長い黒髪はアメリカ人にモテると書いたが、それは髪が「直毛」だからで、黒人の所謂チリチリでは無い。プロットが秀逸なのは主人公の世代はMichael Jacksonを見て育ってる。つまり黒人が演じる白人のカルチャーが正しい事だと何の躊躇もない。彼らは無意識の内に黒人のアイデンティティを失い、白人が望む消費社会に同化する。出演してる黒人界のレジェンドVanessa Williamsは初のミス・アメリカに選ばれるもスキャンダルで失脚したが、歌手として見事にカムバック。代表曲「Save the Best for Last」全米シングルチャート5週連続1位。歌詞の内容から高校の卒業ソングとして世代を超えて全米で歌われてる。公式M.Vが此方、彼女にもこんな時代が"笑"
https://www.youtube.com/watch?v=5EdmHSTwmWY

レビュー済「スキャンダル」出世する為にセックスを強要される縮図を描いたが、本作はカルチャー・レイシズム「黒人が白人に同化」する事は社会問題と指摘する。黒人の個性であるカーリーをストレートにする事は白人化の象徴で、経済的にも文化的にも白人に支配されてる黒人を、肉体面でも支配する事を意味する。B級ホラーにコメディをトッピングした様に見せ掛け、本質は人種差別をスリラーで描く手法は、目に見えない差別を風刺した次世代のレトリック。此処まで理解すれば、レビュー済「アス」「ゲットアウト」に続くカルトホラーの謳い文句に偽りがない事に気付く。差別に反対するのは、イエスorノーの2極化を生むだけ。人種的構造改革に取り組んでこそ差別は無くなる、と本作は訴えてる。Michael Jacksonが最後は白人として死んで逝った事を、忘れてはいけない。

女性は「美」の為ならどんな痛みにも我慢できる、其れに較べたら男の包茎手術は・・・親に感謝です"笑"。
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